由里は体調が悪いと言って客間で寝ているはずだ。それに便乗して純も体調が悪いのだと言っていた
正直、学校へ行く気になどなれず……ひかる達も無理強いはしなかった
その代わりにと、ひかるに幾つかのことを頼み込み。由里の後押しもあって承諾を得た純は、それをじっと待ち
「待たせたな」
「いや……無理を言ったのは俺の方だ」
無愛想な鋼の顔に苦笑する…どうやら由里との絡みは見られなかったようだ。そのことを揶揄するような視線ではなく。友人を心配する視線を向けてくる鋼
手には幾つもの文献。鬼門と皆本の家に関する書物だ
鬼門のことをよりよく知るために皆本の文献を読ませて欲しいと頼み込み。門外不出のそれを読む機会に恵まれた……
ひかるの護衛と言うこともあって学校へ行く鋼を見送り、それらに眼を通す純
捜すべき内容は1つ
「何処かに……残されているはずだ」
でなければおかしいのだ、必ず何処かに……
「純のやつ、大丈夫かな……」
「家族を突然失ったんだ、落ち込んでも仕方ないさ」
教室、臨時の会議は卜部を中心に行われている……と言っても、付き合いのいい希美子とジェレミーだけだが
残りはいつものように何処へ行ったかも分からない。純の欠席は何人かに聞かれたが風邪をひいたのだと言っておいた
まさか家族全て失ったなどと言えるはずもなく
「それにしても鬼門の奴等…」
怒りを露わにする
卜部にも覚えがある純の可愛らしい妹、それが犯され倒れていた姿は嫌でも目に焼き付き
怒りに歯噛みする。そんな中で卜部は掌に拳を叩きつけると
「あいつら、ぶっとばしてやる」
「……そうだね、僕もそうするつもりだ…けれど、彼等は強い」
実際、あの時姿を見せた鬼門達は今まで倒してきた鬼門達とは比べ物にならない力を持っていた
それが7匹、居る……
「特に、あの中には居なかったようだが…千年の昔、酒呑童子と呼ばれた鬼門の強さは尋常なものではない……彼も蘇っているのだとすれば、今のままの僕達では厳しい」
ジェレミーの言葉に重い沈黙が蟠る
「……特訓しかないだろう」
それでも、前向きでしかないのは卜部の長所だろう。どんなに絶望的であってもまだそれは確定してはいない
覆す機会があるのなら挑戦するだけの意味はあり
「今日の放課後、図書室に集合だ。強くなるには実戦が一番だろう」
卜部の言葉に周りが頷く、どうやら立ち止まってだけいるのは周りにとっても不満のようだ、彼等は強くなることを心に決め
「酒呑童子だろうがなんだろうがかかってきやがれ、俺達の敵じゃないんだよ」
……実態を知らぬままに叫ぶ卜部、真実を彼が知ればどうするだろうか
かつて大地を血に濡らした鬼門の長を彼が知れば……
……図書館で鬼門について調べ、修行した彼等は
「また潜り込んだのか…」
辰夫に苦笑しながら校舎を出る卜部達。そして……
鬼門だった辰夫によって、惨敗を期すことになる。彼等にまだ殺す気がなかったため生かされはしたが、鬼門の力という物を刻み込まれ
鬼門の力を再認識した彼等は修学旅行を利用して本格的な修行にはいることとする
場所は京都……そして……
手首を眺める純……正確には手首から指先まで。それ以外にはない
鬼門の1人の腕を切り落としたのだ。斬撃を受けた腕の断面は綺麗で、そこから薫る血の匂いが純を高揚させる
楓はさすがに着いてきていない、由里に手を出すのも難しい
「……何処かへくり出して女でも拾うか」
純の容姿ならばそれも容易いことだ。食事というわけにはいかないが……犯すだけでも飢えは癒される
部屋の中、一人きりで、鬼門の腕を見つめながら呻く純
他の面子は食事のはずだ、調子の悪かった純だけがそこへ残り……
血の匂いに舌打ちする。頭を抱え、ゆっくりと息を吐く
「…全てを伝えてみるか」
けれど、その思考も容易く打ち破られる
「佐藤さん」
由里が、お盆を抱えてふすまを開ける……調子が悪いという純のためにわざわざ食事を持ってきてくれたのだろう
切り落とした鬼門の手首を布で巻きながら、純は愛想笑いを浮かべ…けれど、それもすぐに壊れる
「お兄ちゃん……」
ふすまの奥から聞こえる声……それがゆっくりと入ってくる
手首を失った少女、自分を兄と呼ぶ……
「鬼門っ」
鬼門の娘
それが数人の鬼門を率いて眼前に立つ、歯を噛みしめながら純はそれを睨み
「腕を取り返しに来たんですね」
由里が助けを呼ぼうと周りを見渡している、武器とするリボンを手にしながら鬼門に相対し
「違うよ……お兄ちゃんを迎えに来たんだよ」
微笑む……その笑みが、ひどく懐古を誘い
「何を言ってるんですか」
「お兄ちゃんは私達と同じ……鬼門だから。だから迎えに来たの」
青ざめた顔が一瞬向けられる、それに……
「ふざけるなっ……俺は人間だ、鈴花を殺した貴様等と同じなわけがないっ」
そう
そう叫ぶ自分が居る…
勿論戦いになり。何とか鬼門を退け
「俺は…」
時が早く流れろと、早く真実を知らしめよと…
叫びたくなった