数日の野宿を経て、グローとルイセは魔法学院へと辿り着いた
・・・その間、グローの性を強調する行動にルイセが頬を赤らめることが多々あったが。グローにそれを気にする様子はなく
「アリオストか・・」
魔法学院で飛行装置の研究をしているという人物の話を聞く
・・その装置を使ってフェザリアンの元まで向かおうというのがルイセの提案だ、毒の原因を既に駆除し、今のサンドラを治す術を持つグローにとってはどうでも良い話だが
ルイセとの2人旅の理由のために、フェザリアンの元を目指すスタンスを変えるつもりはない。2人はそのままアリオストの研究室へ向かい・・・
「・・・居ないな」
人気のないそこを背にすると魔法学院内をゆっくり回ることにした、物珍しそうに辺りを眺めるグローはエレベーターの感覚に戸惑いながら学長の下へ向かい
・・・曲がり角で何かにぶつかった。角から飛び出してきたそれはグローにぶつかると崩れ落ち
・・・目の前のそれにグローが動きを止める
「・・・」
「助けてぇぇ・・」
もぞもぞと動く本の山・・何と言えば・・いいのか・・・
本の小山が蠢く様にしばし呆然とするグロー、その不気味なモノは女の子の声を出している・・・しばらく観察し
「この声・・」
ルイセが本をどけ始めるのを見てグローも手伝う・・やがて、奇妙な生物は脱皮するように中から愛らしい少女を産みだし
「ふぅぅぅっっ助かったぁぁ」
・・・反応に窮しているグローにルイセが友人だと紹介してくれる、ミーシャと言うらしい。赤毛の少女はグローの顔立ちが気に入ったのか、グローの周りにまとわりつき
それをあしらいながら・・
「・・・お前・・」
小さな眼鏡をかけ、髪を何本か編んだミーシャの瞳を覗き込む
恋人同士のようにして見つめ合う2人にルイセが慌て、ミーシャが顔を赤くしているが
「・・・」
無言のまま目を離すグロー・・何か考え込むそれに、2人も怪訝そうにするが
「そ・・そう言えばミーシャ、アリオスト先輩知らない?」
「?・・先輩だったらフェザリアンの遺跡に向かったはずだけど?」
・・それさえ聞けば用はない、書物を運ぶ途中だったというミーシャを見送りながらグローはルイセに向き直り
「なぁルイセ・・今の娘、保護者って・・誰だ?」
多少不自然かなとは思ったが・・・ルイセはその問を全く違う意味で捉えたようだ
「お・・お兄ちゃん、いきなり親に挨拶とかは・・早すぎるような」
「違うよ・・・ひょっとしたら身寄りがないんじゃないかと思って、雰囲気が気になったんだ」
適当に言い訳を考える、それに・・ルイセは真摯な表情で
「マクスウェル学長がミーシャを学院に招いたはずだけど」
(学長・・か、工作は容易そうだな)
苦笑いしながらあの眼を思い出す・・・グローだからこそ分かった、創られた者の無機質な輝き
彼女の瞳の奥にはどこか機械的な輝きがあった、それを思い出しながらグローは考え込み
「・・・」
どちらにしろ学長に会う必要があるのだ、その時に確かめればいいだろう
ミーシャとぶつかった角を曲がると、人とは思えぬ美貌の秘書の案内で・・グロー達は学長の前に立ち
「フェザリアンの遺跡への侵入許可が頂きたいんですが」
事務的な手続きは全てルイセに任せる・・・自分が横から口を出しても無駄だろうと。穏和そうな学長の顔を眺めながらグローは口を閉ざし
ルイセの話が一段落するのを待って、こちらからも話しかける
「そう言えば学長・・この学院ではホムンクルスも作っているのですか?」
「いいえ、昔サンドラ君と研究したことはありますが・・今はあまり手は付けていませんね」
「そうですか、ティピのことで幾つかお聞きしたかったんですが、やはり人と同じ大きさの物を作れば人と同じように生きるんでしょうか」
「そうなりますね、寿命も人とほとんど変わらないでしょう」
温和な顔の学長とグローの会話・・グローも笑みを浮かべている
端から見ればただの会話だろうが
「人と同じように生きながら造物主に従う特性も持つ彼女達は。生きていると言えるのですか?」
「おかしな事を言いますね、ホムンクルスは必ずしも女性型ではありませんよ。また彼等には確かな自我が存在します・・・逆らえないのは確かですが」
狐と狸の化かし合い・・
ルイセが怪訝そうにする中で会話はホムンクルスの人権問題に及び
「・・・そう言えば知っていますか?学長、ホムンクルスの瞳には特有の無機質な輝きがあるんです。よほど慣れなければ分かりませんが」
「それは初耳ですね」
ルイセの居る前でこれ以上の会話は危険と判断し、言葉を止める
けれど、柔和なはずの学長の瞳は射竦めるようにグローを見つめ
「では、私達は失礼します・・・・・」
そしてふと、思い出したように懐から本を出すと
「そう言えば先程ミーシャと言う名の少女と出会いまして、一冊いつの間にか懐に潜り込んでいたのですよ、学長のお知り合いだそうで・・・お渡し願いますか」
タイトルは・・『魔導生命体』
「それでは、美人秘書さんによろしく」
ふてぶてしい態度で学長に背を向けるグローに慌ててルイセが続き
・・苦々しい表情で本を手にする学長は挟まった紙片に視線を向ける・・・
「狸が・・・」
「まずは遺跡か・・」
学長から許可を貰ったのだ、これでアリオストを追うことが可能になった
グロー達は遺跡へ向かおうと地図を確認し・・・
「傷薬が足りないな・・少し買い溜めしておくか」
道をずれ。グランシアへ向かう・・この辺りでは最も大きな街だ、フェザリアンの遺跡とそれほど離れているわけでもないため少し道をずれるだけで大きなコロシアムのある街へグロー達は足を踏み入れ
「・・うん?」
街へ入ってすぐ、大仰な鎧を纏った騎士に目を留める・・以前見た顔だ
確か、犯した女の兄で・・・
・・素知らぬ顔で通り過ぎる、実際顔は会わせてないのだ・・気付かれるはずもなく。思わず眼であの女を捜す
どうやらこの近辺には居ないようだ、グローはそのまま街の中へと入っていくと周囲を見渡すようにしながら女の姿を捜し
「これでいいね」
ルイセが買い求めたばかりの傷薬を確かめながら言ってくる、生返事を返すグローは半ば諦めながら。道に迷った素振りを見せ奥へと行き着く
木々に囲まれた街道、以前のあの情景が思い出されるそこで
「・・・」
グローはカレンと再会した