「っ・・・」

全身に巻かれた包帯に辟易しながら身体を起こす

まだ痛みはするが、何とか動くことは出来そうだ・・・スレインはゆっくりと周りを見渡す

変わらない・・・自分が拾われてきたときと

名前はスレイン、その程度だ・・・助けられたときに覚えていたのは

アネットという女性に、崖の下で傷ついていたところを助けられ。こうして手当もして貰っている

けれど。傷が多少なりとも癒えても・・・何も思い出せない

リングウェポンを持っていたことから傭兵か何かかとも思われたが、思い当たる節はなく

ひとまず、療養しているのだが

「ちっ・・奴等来やがった、スレイン、お前も戦え」

・・・ここは戦場の真っ只中、戦いが日常的に起こる場所

スレインは身体を起こすと、満足に動かない身体に無理を言わせて歩み・・巨大な大剣を構える

付けていた指輪は一瞬で大剣へと姿を変え

「・・・戦わなければ」

死んでいく仲間、死んでいく敵・・その姿を明瞭に瞳に映しながら

・・・隣にいた男が死んだ・・・自分を庇って・・・それを、何処か遠い眼で見ながら

「・・・戦わなければ・・いけないんだ!」

・・スレインは、その場にいた兵士全てを・・・惨殺した・・・・
 
 
 
 
 
 

記憶がない・・と言うのはなかなか不便なものだ

誰も信じられない、誰もが嘘を付いているのかも知れないのだから

自分すら、信じられない・・・それを確かめるための記憶が存在しないのだから

何処で何をしていたのか、何も・・手がかりはなく

あれからさらに数日、何とか動けるようになったスレインは見張りに駆り出され・・・療養中のはずの男と言葉を交わし

「スレイン」

「・・アネット?」

声をかけてくる少女に頷く

・・・おかしい・・死んだはずの男と話していた気もするが

けれど、彼女から伝えられたのはあの男・・スレインを庇って重傷を負った男が死んだという物

悲しむより早く、納得した

・・・やはり、誰も生き残らなかった。そんな予感がしたのだ・・・

アネットに見張りを任せると、軋む身体を動かす

身体が満足に動かない、まるで・・・人形のように

食事も満足に摂り、傷も癒えてきているというのに・・・身体の調子は思わしくない

いや、悪化する一方だとも言える

「・・・・」

糸の切れかけている人形、そんな感じがする

何時か、ぷっつりと倒れてしまいそうな・・・

「顔色悪いよ?・・帰って休んだら?」

アネットの言葉に頷き、寝食を与えられている街へ戻ろうとする・・・・けれど、食事で、癒されるだろうかk・・・この無力感は。何かもっと、根元的な物が足りていないようで

・・・帰って、ゆっくり休めば・・・楽に、なると信じて歩き出す

食事の術を知らないかのように、スレインは飢え

「・・・何でだろうな」

走り出す・・・

偶然というのなら明らかにおかしい、奴は自分の接近に気付かなかったというのか

・・・暗殺者とも有ろう物が

暗殺者、人の死を糧とする男は、薬草を取りに来た女にナイフを振り上げ

「・・・・」

スレインが投げた短刀は暗殺者の腕を貫き、毒の塗られたナイフは女の太腿を斬り裂いて落ちた

そのまま駆け寄り、暗殺者を排除し・・・追い剥ぎを無視すると

「?・・・・」

・・アネットに非常によく似た顔立ち

・・・・5つか6つは上だろうか、姉妹は・・居なかったはずだが・・

それを確かめることよりも、右太腿の外側に付いた傷口に触れ・・黒ずんだそれと暗殺者の落としたナイフにこびりつくどす黒い汚れ

「っ・・・」

暗殺者が確実を期すために毒を用いることは当たり前で。急所こそ外れたが毒はすぐに回るだろう

急ぎ、女のベルトを外すとズボンを脱がし・・・

「あっ・・・」

ショーツが露わになることを恥じる女を無視して太腿に貪り付く・・口の中に傷があったり毒を飲んでしまえばスレインにも毒が回ることになるが。苦しむ女は深刻で

彼はそれ以外の応急処置の術は知らず

頬を赤くし、震えている女・・・・その傷口から血をすする。白い肌に指を沿わせ

赤いショーツを眼の端にとどめながらスレインは血を吸って吐き出すことを繰り返す、それらを飲み込まないことにだけ留意し、何度も血を吐き

・・・その脇腹に指が食い込む

「っ・・・何を?・・」

応急処置を施している青年、毒の種類も満足に分かっていないのだからそれが最善かは分からないが

・・落とされたナイフを手に、毒を鑑別していた女は腰を抱きしめ脇腹に指を食い込ませるスレインに顔を蹙め

「・・・幻か・・・」

呟く・・・指は肉を突き破ることもなく、容易く・・・・女の中心を鷲掴みにし

「幽霊・・・亡霊・・そんな物を言うんだろうな」

既に傷もない・・・毒を口で吸いながら口内の粘膜には何の痛痒も感じない。味も、苦しみも・・ただ女の血の味だけが感じられ

何となく理解する、直感的な把握・・・既にこの女の肉体は死滅していると

だからこそ、ただの幻影でしかなかった暗殺者の一撃は見せかけしか映せず。自分が亡霊で在ることに気付いていないのか・・・呆然とする女は自分が死した場所で幾度も繰り返しているのだろう

死の寸前の光景を

ここにあるのは女の魂だけ、それが生前の姿を映しだし・・・幻影を創り上げる

何度殺されたかも分からない、何度追い剥ぎにあったのかも分からない

ただ・・干渉できる存在の登場が、無限の連鎖に一条の光明をもたらし

・・・分からない

何故、自分が干渉できたかが・・・・先程、自分を庇った男が死んだと聞かされた・・・けれど、そのさらに少し前に。自分はその男と出会っていたはずで

今なら分かる、彼も亡霊だったのだろう

亡霊を見、触れることが出来る・・・記憶を失う前に何をしていたかは分からないが、それが自分の力のはずで

「・・・・」

鷲掴みにした魂、それをどうすればいいのか・・解放する術も満足に分からず

ただ・・・

「これか・・」

飢えが満たされる、身体に力が戻ってくる・・

食事を万全にしても、睡眠を十分にとっても癒されなかった無力感が満ちていく

鷲掴みにする魂から、体力・・とでも言うべき物が流れ込んでくる、それがスレインの身体を構成していき

・・・・女の魂から命を奪っていく

「あぁ・・」

苦しみ喘ぐ女の腹に手を突き入れながら。スレインはしばし黙考し

「・・・これは・・どういうことなんだろうな」

異常なまでに元気になった身体の一部分に嘆息する

・・・衰弱していた身体が亡霊から命を奪うことで癒されているのは分かる。だが・・股間の巨立は異常で

勃起した剛直・・・それが中から突き破ってきそうな勢いで反応し

記憶の一部が崩れ落ちる。ゆっくりと理解する

・・それは、不思議な現象・・・自分の中に2つの存在があり、その一つが女から命を奪うことを諫めようとする

そしてもう一つは、教えてくれる・・より効率的に。命を奪う術を

やめろと叫ぶ存在と、奪えと叫ぶ存在の狭間で

「房中術か・・」

スレインは、女の身体を押し倒した
 
 
 
 

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