嘘まで付いて鑑賞する気はない。ばれれば信用を失うのだから。愛液が一滴、零れるのを待ってアニエスに声をかけ
「もういいよ」
呟きながら調合を始める、それほど手間をかけることなく解毒薬を作成し……もちろん愛液など無くても出来るのだが……
慌ててショーツをはいているアニエスを視界の端で眺める、汗と…汁とに濡れた股間にショーツを纏うアニエスは下着を湿らせながら着衣を直し
股間に染みこんだ媚薬にショーツの位置を直しながら四苦八苦している。まだ股間が疼いたままだろう……それを知りながらデュアンは着衣を直したアニエスをじろじろと舐めるように眺め
アニエスの視線がこちらを向く前に視線を剥がす。媚薬の効果は水浴びをしても数日は残留する。チャンスはいくらでもある
雪豹に解毒剤を飲ませるアニエスに、何処からともなくオルバも現れ
「で、あんたも魔女を倒しに来たのか?」
情報交換を申し出る……穏便に友好的な関係を築いた方が後々ヤりやすいと考えたようだ。デュアンと女の趣味が似通ったためにほとんど意思の疎通も必要とせずにアイコンタクトだけで確認しあい
「え…ええ、あなた達も?」
「……まぁ、ね」
オルバは見るからに屈強な戦士だ、デュアンも雪豹の必殺の一撃を受け止め、毒を使いはしても撃退した。どちらもが冒険者だと判断したのだろう…デュアンの方アーマーや装備からしても初心者の風体だが
アニエスは息を付くと2人に眼を向け
「…私、あなた達を雇うわ」
真っ赤な顔で予想通りの言葉を吐いてくる……見たところ魔導師だが。冒険者としては初心者だろう、単身魔女の森へ乗り込んだ行動力は大した物だが
正直、経験不足は否めず
「報酬は?」
「…この指輪でどう?」
燃える炎のように輝く宝石を象った指輪を渡される。それをじろじろと見渡して…デュアンに渡してくるオルバ。デュアンもそれに眼を通し
「…いい石だね、1万Gは下らない…様式はフィアナかな?」
「よし、商談成立だ」
オルバを中心として即席のパーティーを組む3人。戦士が1人に魔術師が1人、底の見えない器用貧乏が1人とバランス的にも問題ないだろう
その後、彼等はそこで野営し……
……深夜にデュアンが2人を蹴り起こして野営場所を変えたりといろいろあったが
……文句を言っていたアニエスは寸前まで野営していた場所でのたうつヒュドラの姿を覗かせてやったら大人しくなった……
やがて、クエストの目的である魔女の館へたどり着き
「…調べられるか?」
オルバの言葉に館の扉に無造作に触れる。そっとなぞるようにして触れながら……鍵穴を覗き込み
指先から僅かに電光が発せられたように見えると、鍵穴から毒針が転がり出てくる
「ど…どうやったの?」
「罠がもう古くなってたみたいだ。叩いたら転がってきたからバネが伸びきってたんじゃないかな」
針を磁化させて引っ張り出したのだが、わざわざ説明する気にはならず
針金を突っ込んで数秒。両開きの扉を開けてみせる
「……デュアン、あなたファイターじゃなかったの?」
「偶然だよ、僕の家の鍵とよく似ていたからうまくいったんだ…何度も鍵を無くしてるからね」
アニエスの後ではオルバが感心している、盗賊としての能力も有ることを考えているだろう。ナイフは一流、魔法も使え、盗賊としても役に立つ
これで力を異常なまでに隠そうとする癖と女癖の悪ささえなければいいのだろうが
屋敷の中へ入っていくデュアンはわざと足音をたてながら、周りの誇りを舞いあげ……今にも折れそうな程にへっぽこのショートソードを握っている
どうにも、自分の力を隠そうとするのが身に染みこんでるらしい
正門から中へ入り込んだ3人は周囲を見渡しながら部屋の中を散策し
「ただの部屋か……」
つまらなそうに呟く
が、デュアンの法はきょろきょろと色々見回している…それをそのままに、デュアンに近付くと
「見られてるね」
唇を動かさぬままデュアンの声だけが聞こえる。オルバに聞こえるだけの小さな声だ……アニエスは気付いていない
「特殊な製法の鏡が幾つか置いてある、たぶん僕達は見張られている……魔女は多くが残忍で悪戯好きだから、僕達の苦労を眺めて楽しんでいるんだろうね」
デュアンほど器用ではないので何でもない素振りをするオルバ、それを無視しながらデュアンは続け
「チェックと使い魔に館内の散策を命じた……僕の仲間みたいなもんなんだけど。そいつが目的の場所を発見するまで魔女を油断させられたら僕達の勝ちだ」
「しっかし悪趣味な部屋だな」
デュアンの言葉を聞き終えると同時に周りを無遠慮に漁り始めるオルバ、デュアンも同じように家具などに触れている
……注意していたが、魔女の魔力は強力だ。鏡など無くてもデュアン達の監視くらいは容易いだろう
ならば、何を視られていたか……
視線を感じ始めたのは館に入ってからだ、それからは確実に見られている
なら、デュアンがサイクロプスを一蹴したのは?アニエスに痴態を命じたのは?
見られていたのなら警戒されているだろう
「……一応、保険はかけておくか。これは疲れるからやなんだけどな」
ぶつぶつ言いながら、魔女達の監視の目が届く範囲でランタンの火を明滅させる。雷撃をうまく使っているのだが……はっきり言って難しい
細心の注意を払いながらデュアンは数分の間明滅を続けさせる……それを視界の端に捉えていたのだろう、アニエスがぼぅっとしている
意識を混乱させ、記憶の繋がりを不明瞭にさせる催眠術。本来なら薬も併用するが今回は光だけだ、効果は疑わしく
「さて…行くぞ、お前等」
オルバが言いながら扉を開け放ち……館内での戦闘は始まった
「ぜぃ…ぜぃ」
実際には疲れなど微塵も感じていないが、疲れた様子を演じてみせる
今までに出てきた魔物は妙な骸骨犬とグリフォン、動く鎧程度だ……程度は低いが数が多い、オルバもかなり疲れた様子で
「…後2か3…」
ぼそりとした呟きにオルバが頷く
……どうやら魔女はこちらをかなり侮っているようだ。魔物の創造はかなりの魔力を要するくせに低レベルの魔物しかけしかけては来ない
こちらの滑稽な様を眺めて笑ってでもいるのだろう、それが分かっているからこそデュアンはわざとオルバの足を引っ張るような真似もしているのだが
……魔法を使うことをオルバに禁止されたアニエスも苦しそうだ、クノックは数匹の骸骨犬を倒しながらまだ平気そうな様子だ
デュアンは片目をつぶりながら辺りを見渡す……不気味な絵の飾られた部屋だ、ただ…風の流れがおかしい、おそらくは隠し扉が何処かにある
風の流れに従って絵を外してみるデュアンは、そこに確かに隠してあっただろう通路を見つけ…頷きあいながらそこへ踏み込み…
「…嫌な予感はしたんだよね」
コッコッと…床を踏みしめながら呟く。周りではオルバとアニエスが騒いでいるが…知ったことではない
天井が降りてくる部屋…もうすぐ潰されるだろうが。デュアンは騒ぐことなく歩き回り
どうやら時間的にもそろそろ限界のようだ…使い魔達からは随分と面白い返答が返ってきている
コンッ
脚を止め…そこを踏み抜く
単純な隠し扉だ。3人は一気にそこへ踏み込み…
「止まれぎぃっす。じゃないと殺すぎぃっす」
…笑い転げる魔女達の背後で冷徹な声が響いた