真昼の情事/官能小説


  重役秘書

                        蛭野譲二

   10.ある仕掛け


  
 夕刻、義雄は定時を回ると直ぐに会社を出た。

 一時間半後、会社からターミナル駅を通り越したとある駅で、二人は待ち合わせをした。

 義雄は、小脇に紙袋を抱えていた。たいして言葉も交わさずに歩き出す。

 小夜子を連れて少々古びた雑居ビルに入ると、エレベーターで最上階の六階のフロアーに降り立った。

 そこは、元々マンションとして造られたような感じだが、フロアに入っているのは事務所が多いようで、この時間にはほとんど人の出入りがない所だった。

 ビルの状況を事前に調べておいた義雄は、無言で階段の鉄の扉を開く。

 目で促されて、小夜子も階段側に出る。

 階段は半解放型の設計である。踊り場は突き当たりが道路側に面していて、胸の高さから天井まで壁がない。のぞき込めば真下に今歩いてきた道路が見えるのである。

 道路を背にして小夜子を立たせると、義雄はブラウスをはだけるように命じる。

 人の出入り頻度が分からない小夜子は不安を隠せない様子だったが、義雄の指示に従わないわけにも行かなかった。

 ここで義雄が何をしようとしているかは薄々解っていた。夕方会社を出る前、義雄から母乳を搾らずに待ち合わせの場所に来るよう言われていたのである。

 誰が何時来るか分からない所なので、小夜子は「早く飲んで済ませて欲しい」と思っていた。

 しかし義雄は、ブラジャーから剥き出しになった両乳房を暫く眺めていた。

 乳房の表面の静脈が徐々にくっきり浮かんでくる。小夜子も乳房が火照り、つっぱり感が増してくるのを自覚していた。

 やがて、左のピンクの突端に白い滴が浮き出してくる。

 それを確認すると義雄は初めて笑顔を浮かべる。

 「そろそろ熟してきたかな?」。

 一言呟いて、小夜子の乳房を手で支えると、片手で乳輪の辺りを揉み絞る。乳首からは、ミルクが五、六本の筋となって迸る。義雄は小夜子の後ろに回り込み、腕を前に伸ばして両乳房を掴む。両手で同時に乳房を搾ると、シャワーのように白いしぶきが迸る。

 コンクリートの踊り場や階段の上に無数の小さなシミができてゆく。

 義雄の手は小夜子のオッパイを前に押し出すように搾り続ける。

 コンクリートのシミは、さらに数を増し、点同士がつながって二人の前に大きなシミが広がる。

 なおも搾乳を続けると、シミは白い水たまりに変わり、階段を流れ落ちていった。

 義雄は、まだ滴のしたたり続けていた乳首をさも当然といった風に吸い始める。口の中には、生温かく甘い液体が流れ込む。

 小夜子も乳首を吸われる快感も手伝って、一面を濡らした恥ずかしさから少し解放されていた。

 乳房の張りが一応収まる程度に母乳を飲み終わると、義雄は小夜子にその場でスカートを捲り上げるように命じる。

 太腿の付け根にある無毛の縦割れが姿を現すと、次に脚を開くよう促す。続けて小夜子自らの手で女の部分を広げるように指示する。

 これは、小夜子にとって屈辱的な姿だが、「どんな命令にも従う」と約束させられた手前、拒否することもできなかった。

 義雄は、小夜子の前で腰を落とすと、彼女の指先の間に顔を覗かせた敏感な突起を攻め始める。

 指の腹で軽くくつろげるだけで、彼女の下半身の唇には滴の輝きが見え始めていた。夕刻、義雄と待ち合わせた時点で、小夜子の股間は既にじんわりと湿っていたのである。

 濡れ始めたのを確認すると、義雄は手に持った紙袋から何やらオモチャのようなものを取り出す。

 それは繭玉にコードを付けたようなもので、コードの先には電池ケースを兼ねたコントロールボックスが付いている。俗にパールローターと呼ばれるバイブレーターである。

 義雄はロータを摘むように持ち、それを躊躇無く女の部分に押し込める。

 小夜子は冷たい異物を感じて咄嗟に手を離したが、後の祭りである。少し大きめのコントロールボックスは、ストッキングのゴム部分に差し込まれ、コードは束ねてガーターベルトに絡ませられてしまった。

 「じゃあ、食事でもするか」。

 「このままですか?」。

 「当然だろ。今日が最後の夜だ。二人でおおいに楽しもうじゃないか」。

 しかし、小夜子は単純に楽しむわけにもゆかない。これから何が始まるかも分からず、またも恥ずかしさへの不安がよぎる。

 小夜子は、一歩脚を踏み出すと、何とも言えない感触を覚えた。再び路上に出て歩いていても何処となくぎこちなくなってしまう。普段、生理の時にタンポンを使っている小夜子だが、バイブレーターの異物感はそれとは全く異なる。幸いスイッチは入っていなかったが、下手に動いてバイブレーターを落とすことだけは避けなければならない。


 二人が駅の改札に来たところで、義雄は煙草を買いに行った。結果、小夜子はしばらくの間、改札口の前で一人待つこととなった。

 駅に電車が着き、大勢の人が改札を抜けてくる。それを小夜子はボーっと見ていた。

 その時である。体内に埋め込まれたバイブレーターが突然動きだしたのである。

 ビクンと身体を動かし、「あっ」と声をあげてしまった。

 改札から出てくる人の多くが、瞬間に小夜子に視線を走らせる。

 女の部分の奥底からの振動は続いていたが、これ以上人目を引く動きをするわけにもゆかず、ただ歯を食いしばって耐えるしかなかった。

 そこへ、義雄が少しにやけた顔で歩いてくる。ポケットに手を入れた義雄が声をかけられるくらいに近づいてきたところで、何故か体内の振動が止まった。

 「どうかしたのか?」。

 「いえ」。

 駅の中で「バイブレーターがどうの」などと話せるはずもない。小夜子は、それだけ言うと、うつむき加減に義雄について歩くしかなかった。

 電車はそれほど混んでいなかったが、二人はドアに肩をあずけるようにして向かい合って立っていた。

 「どうした?。まだ張ってるのか?」。

 無言で伏し目がちにしている小夜子に義雄が声をかける。

 「いえ」。

 「そうか、さっきはあまり飲んでやれなかったからな。後でまた飲んでやるよ」。

 一見慰めにも聞こえる会話だが、小夜子には反対の効果があった。

 オッパイへの連想で、また乳房が火照り始めていたのである。いつまで母乳が溢れさせずに持ちこたえられるかの心配事が頭をかすめる。

 電車が目的地の駅まで後一駅になったところで、また不意にバイブレータが動き始めた。

 電車の音で振動音は聞こえるはずもないが、またも小さな機械に小夜子は翻弄させられる。

 「どうした?。今度は少しエッチな気分になってきたか?」。

 ポケットに手を突っ込んだ、義雄が小夜子に耳打ちした。

 このとき、小夜子は初めて謎が解けた。体内のバイブレータは義雄が遠隔操作しているに違いなかった。彼女自身がリモコンで操作されるオモチャのような立場になっていたのである。

 そうと解ると義雄を忌々しくも思えたが、装填された器具は微妙に性感をくすぐり、悔しいほどに身体を感じさせる。

 電車は、目的地の駅に近づいた。

 バイブレーターが動き始めて何分も経っていないはずだが、小夜子はどっと疲れ切っていた。

 電車がブレーキをかけたときの振動で彼女は少しよろけてしまった。そのとき、太腿にかすかに触れるものがあった。

 どうやらガーターベルトに挟んでいたバイブレーターのコードの束がほどけたようである。

 「線が落ちたみたい」。

 小さく声をかけられ、義雄はバイブレーターのスイッチを切った。身体を反らして彼女のスカートの裾に目をやる。

 「大丈夫。見えてやしないよ」。

 しかし、義雄はうそをついていた。実際にはコードの一部がスカートからはみ出ていたのである。



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