鳴海歩が月臣学園の新聞部部室の扉を開けると、柔らかそうな髪をゆるいおさげにした少女がいた。少女はムフフッと機嫌よさげな笑みをこぼしながら写真のようなモノを眺めていた。この部屋の主、新聞部部長の結崎ひよのだ。
部室内を見渡すと、いつもの如くいかがわしさ満点だ。どういう『経緯』でこうなったのかわからないが、この部屋には冷暖房が完備してあり、テレビもパソコンも電気ポットもある。極めつけは、マイセンのティーセットだ。
歩はひよのが『新聞部の活動』をしているところを見たことがない。それなのに、どうしてこんな豪華な部室がひよのに与えられたのか不思議だ。噂によると、ひよのは学長を含む学校関係者が『怯える』ほどの情報通らしいが、それと部室と何か関係があるのか今もって謎だった。
ひよのとはブレードチルドレンの一連の事件で知り合ったが、彼女がもたらす有益な情報がどこから入手されているのかも今もって謎だった。
ひよのは入り口の前に立っている歩を見ると、満面の笑みを浮かべて手を振った。
「あっ!やっほー!鳴海さーん!!そんなところに突っ立っていないで中に入ったらどーですか?」
一人でにやにや笑いながら写真を眺めている変てこな女がいたから部屋に入るのを躊躇していたんだと歩は言いそうになった。だが、そう言えばひよのに絡まれるのは目に見えていたので、歩は黙って部室に入った。
ひよのは返事をしないで椅子に座って料理雑誌を読み始めた歩に対し、
「ううっ、鳴海さんが挨拶を返してくれません‥‥ひよのちゃんは悲しいですねー。こんなに尽くして、尽くしているのに‥‥最後はやっぱりポイ捨てなんですねーー。ホントに悲しいですねーー」
「‥‥‥」
およよと泣きまねをするひよのに対して、歩は料理雑誌から顔を上げて一瞬ひよのの方を向いた。しかし、すぐに雑誌の方へ視線を戻す。
「な、なんですかその態度は!?」
ひよのはどこからともなくハリセンを取り出し、歩の頭を殴ろうとした。しかし、寸でのところで歩にかわされる。
「‥‥あんた、今、そのハリセンをどこから取り出したんだ?」
「そんなことはどーだっていいんですっ!鳴海さんは、いつも私に冷たすぎますっ!鬼ですっ!悪魔ですよっ!!こんな可愛い先輩を『あんた』呼ばわりして‥‥まったくもうっ!『ひよのセンパイ‥‥今日もお綺麗ですねっ♪』の一言でもかけてくれたっていいじゃないですかっ!!」
ひよのは歩より一学年上に当たる二年生だった。ちなみに、その容貌は端正であどけない中学三年生という印象を受けるものであるため、可愛いことには違いないと思われたが綺麗という言葉を当てはめるには少し難色を示したくなる。
歩は一つ溜息をついてこうるさげに顔をしかめると、制服のポケットに手を入れた。
「‥‥あんたにコレをやるからおとなしくしてくれ‥‥」
歩がポケットから取り出したのは青いビニールに包まれたキャンディーだった。
ブチッ‥‥
ひよのの頭の中で何かが切れる音がした。
「‥‥わかりました、鳴海さん。それが、鳴海さんに必死に尽くしてきた可憐な超絶美少女に向けた仕打ちなんですね。よ〜くわかりました。それならそれで、私にも『考え』がありますっ!」
ひよのは殺気のこもった笑顔を浮かべると、椅子に座り直した。どうやらひよののこめかみにはかなり太い青筋が立っているようだ。
歩はさすがに少し怖くなって懐柔交渉を始める。
「‥‥今度、あんたの好きなケーキでも作ってやろうか?」
「‥‥いりませんっ」
ひよのにぴしゃりと断られると、歩は困った顔をして頭をぽりぽりと掻いた。こうなってはもはや仕方がない。歩は時間による解決を選択することにした。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
歩にとって妙に居心地の悪い時間が流れる。歩は目の前の料理雑誌に意識を集中することにした。
歩がひよのの方を覗き見ると、ひよのはノートパソコンと向き合ってムフフッと笑っている。その笑みには何やら言い知れぬ不気味さがあった‥‥。
歩はさっと視線を雑誌へと戻す。
新聞部部室内には奇妙な緊張感が漂っていた。この奇妙な緊張感はひよのによって破られた。
「‥‥鳴海さん‥‥さっき、私が眺めていたモノが何なのか気になりませんか?」
「‥‥‥ん?」
唐突な問いかけに、歩は一瞬、何のことを言っているのかわからず、頭の中をめぐらした。歩の頭に浮かんだのは、歩が部室に入ろうとしていた時に、ひよのが笑いながら眺めていた写真のようなモノだった。
「俺が部屋に入ってきた時に、あんたが見ていた写真みたいなモノのことか?」
「そうですよ。気になりませんか?」
「‥‥‥別に」
ブチッ‥‥
笑顔を浮かべたまま、ひよのの頭の中で再び何かが切れた。
「そうやって会話の流れを切るような行為はやめてくださいっ!会話はキャッチボールですよっ!ボールを捨てるような真似はやめてくださいっ!───鳴海さんにはもう絶対に最高レベルの『教育』をしますっ」
「‥‥なんだその『教育』ってのは?」
「今は気にしなくていいんです。それより、私が見ていたモノ‥‥本当に本当に気になりませんか?」 ひよのが顔面アップで迫ってきた。
「‥‥気になる」
歩は渋々といった表情でその言葉を口にする。
「ムフフッ‥‥では鳴海さんには特別に見せてあげましょうっ!絶対に驚きますよ‥‥」
その口元には、どこかいつもと違った笑みが浮ぶ。テーブルの上に先ほどまでひよのが眺めていた『モノ』が並べられていった。
「なっ‥‥!?」
それは写真だった。しかも歩の想像の枠をはるかに超えモノだった。
一枚目の写真では、月臣学園の制服を着た可愛い少女がピースサインを作って満面の笑みを投げかけていた。写真の右端には、一年D組桐島みずほとある。しかし、次の写真では、その少女が制服を千切られ、顔を恐怖で歪めながら、今まさに強姦されているという様相が写しだされていた‥‥。しかも、その襲っている相手は‥‥。
「が、学長‥‥?」
月臣学園の学長は、全国でも指折りの進学校である月臣学園の熱心な教育者として知られており、また容貌が魅力的に映る端正な顔立ちなことからテレビなどにも度々登場する人物だった。
写真を持つ手が震えた。写真をめくっていくほどに、その震えは大きくなっていく。
「そうですよー‥‥‥Mr.ロマンスグレーの学長と桐島みずほ、月臣学園1年の中では人気bQの美少女ですねー」
歩は驚きの眼差しをひよのに向けた。その目は、いったいどうしてあんたがこんな『モノ』を持っているのかと訴えかけていた。
「ふふっ‥‥驚きましたか、鳴海さん? ‥‥どうしてコレを持っているのかは秘密ですよ。鳴海さんといえども、貴重な情報源をお教えするわけにはいきませんからねー。これを鳴海さんに見せた目的‥‥鳴海さんにはわかりますか?あっ、別に鳴海さんに学長の悪事を暴いてくださいというわけじゃないですよ」
ひよのはくすくすととても楽しそうに嗤った。その目には今まで感じたこともないような妖しい色が浮かんでいた。
なぜか歩の頭の中で警鐘が鳴り響いた。ここにいては危険だ。この女と一緒にいてはとてつもなく危険だ―――と。
「あれ‥‥鳴海さん、どうしました?」
歩は身体を思わずビクッと震わせて反応した。ひよのの声が耳元でしたのだ。気が付くと、ひよのの気配は歩の背後からした。ひよのがいつのまにか自分の背後へ回っていることに全く気付かなかった‥‥。
気配を全く感じさせずに背後に回ったひよのへの恐怖が走った。
「もう鳴海さーん、私の質問の意味‥‥理解できたんですか?」
ひよのは歩の腕を掴むと、耳元でくすくすと笑った。ひよのの息がくすぐるように首筋にかかる。
「‥‥俺に学長の悪事を暴く以外で、コレを見せる目的‥‥それは」
「んー?それは‥‥なんですか?」
「この状況を考慮すれば、学長にすら圧力をかけることができるあんたの『力』を俺に見せつけるぐらいか?」
「はいっ、正解です!鳴海さんには、簡単すぎましたか‥‥。ちなみに、私が動かせるのは、学長だけじゃありませんよー。ではでは、次の質問っ。私の力を見せつける『動機』はなんでしょうか?」
ひよのは、歩の顎に手を伸ばした。ひよのの柔らかい手の感触が歩の顎をなぞる。もう一方の手は歩の首筋を味わうように滑っていく。
「うーん、鳴海さんの肌はスベスベですね。想像以上ですー。もうセンパイはたまりませんよー」
「‥‥それは、先ほどの会話の流れから、たぶん『教育』なんだろうが‥‥その教育とやらがろくでもないことであるのは違いないな‥‥」
ひよのは身体を歩の背中にピッタリとくっつけると、すりすりと頬を寄せた。歩は背中に柔らかい何かが押し付けられ、思わずどきりとした。
「そんなことはありませんよ‥‥鳴海さん。『教育』というのはね‥‥鳴海さんを‥‥可憐な超絶美少女に相応しい男の子にする‥‥きゃっ」
歩はひよのが言葉をすべて吐き出す前に、ひよのを突き飛ばしてこの部屋から逃げ出そうとした。ひよのがしようとしていることが何であるか全く見当がつかなかった。だが、自分の身に何か良くない危険が迫っているのを感じていた。
ここから一刻も早く脱出せねば―――歩の勘がそう告げていた。
「くっ‥‥‥‥逃がしはしませんよ。鳴海さん‥‥」
ひよのは一瞬だけ体勢を崩しかけたが、すぐに建て直す。その反応は早く、次の瞬間には歩を追いかけていた。
「この部屋を出れば―――」
歩の手がドアにかかる―――そう思われた瞬間、歩の身体は大きな音とともに地面に叩きつけられていた。
凄まじい反応で鳴海に追いついたひよのの足が、歩の足を引っ掛けていた。
「ぐっ―――」
うまく受身が取れなかった歩は、思わず息を詰まらせた。
「ふふっ、鳴海さん‥‥おいたは駄目ですよー?」
ひよのは、うつ伏せの状態の歩にのしかかってきた。歩の両手はしっかりとひよのに絡めとられている。
「くっ‥‥あんた、俺にいったい何を‥‥?」
「もう鳴海さんは、鈍感なウブウブさんですねー。でもそこがまたそそられるんですが‥‥ふふっ」
ひよのは、歩の耳元に口を寄せた。
「これから何をするのかは、ヒ・ミ・ツですよー。とりあえず、準備ができるまで寝ていてくださいねー」
次の瞬間、バチバチという電気が弾けた音と共に、歩の身体には強烈な痛みを伴う衝撃が走った。
「ぐっあああああぁぁぁぁぁぁぁ‥‥‥」
口から耳をつんざくような絶叫を迸らせた。そして、ぴくりとも動かなくなる。
「あれれ‥‥?ちょっと効きすぎたかー」
現在の状況に全く似合わないのんびりした口調で呟いた。ひよのは自分の手に握られていたモノを眺める。それはシェーバーに酷似した形状の漆黒の物体だ。ひよのが護身用に携帯していたスタンガンだった。
「もしもーし、鳴海さーん、大丈夫ですかー?う〜ん、でもまあ‥‥死んでないみたいだですし、大丈夫ですよねっ」
ひよのは歩の腕をとって脈を取ると、満足そうに頷いた。そして歩にのしかかったままの状態で頬を軽く朱に染め、うっとりとした表情を浮かべながら呟いた。
「ああっ‥‥これから鳴海さんとの目くるめく素敵な時を過ごせるかと思うと‥‥エクスタシーですねーー」
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何かが顔に張り付いている感触がする。柔らかい髪が頬っぺたをくすぐるようにして撫でるのを感じた。
頭の中へ女の子のくぐもった声と共に、ピチャピチャという妙に生々しい水音が響いてきた。
朝靄のかかった意識が徐々に晴れていくように鮮明になっていく。どうやら自分が仰向けの状態であることがわかった。
ゆっくりと目を見開くと、なぜかそこには顔面アップのひよのの顔が‥‥。
ぼんやりとした意識がはっきりしてくると、自分の唇がひよのによって塞がれていることに気が付いた。
「―――――――ッ!?」
歩は驚いて頭を起こす。
ゴッ‥‥‥
「あ痛ッ!!!」
「くっ‥‥‥」
鈍い音と共に、二人は同時に悲鳴をあげた。ひよのは頭を押さえてうずくまった。
「んーー、んーー、めちゃくちゃ痛いですよー、鳴海さーーん‥‥」
両手で額を押さえながら、ひよのは情けなさそうな声をあげた。顔を上げると、目が半分涙目である。
「‥‥‥それは、あんた俺にとんでもないことをしていたからだろう‥‥」
歩も頭に走った衝撃に顔を痛そうにしかめていた。
「眠っている王子さまをお姫さまのキスで起こそうとしただけですよー」
「なんだそれは‥‥新手のギャグか?」
「ヒロインはギャグでキスはしません!まったく超絶美少女に向かってなんてことを‥‥」
ひよのは両手で歩の頬っぺたをギュッとつねった。歩の頬肉が目一杯引っ張られる。
歩はのしかかってきたひよのを振り払おうとした。しかし、腕を使ってひよのを振り払うことはできず、代わりに金属の甲高い擦れあう音と手首の辺りに鈍い痛みだけが残った。
目だけで辺りを見渡すと、そこは歩の見知らぬ部屋だった。
そこで、歩は思い出した。自分が部室内でひよのとの口論から、ひよのに襲われることになったことを‥‥。
「‥‥いっらいこえはどうひゅうほほかへつへぇいひてほらほうか?」
「‥‥『いったいこれはどういうことか説明しもらおうか』といいたいんですか?」
歩は頷いた。ひよのは歩の頬っぺたから手を離す。
いつもの天真爛漫でこぼれんばかりの笑顔をひよのが作ると、楽しげに告げた。
「えへへッ‥‥もちろん鳴海さんを『強姦』して『調教』する為です!あれれ‥‥この状況を見てわかりませんか、鳴海さーん?いつも冴えた鳴海さんらしくありませんねー。今、鳴海さんはベッドの上で手足を鎖でつながれているんですよー。ああっ‥‥鳴海さんの拘束された姿いいですネ〜。とっても似合ってますよっ!後でちゃーんと記念撮影もしてあげますから‥‥安心してくださいね」
「なっ‥!?」
ひよのが何をいっているのかわからなかった。目を白黒させていた歩はひよのに引きつった笑みを返す。
ひよのもニコニコと笑みを返して、歩のシャツに手をかけた。
「それじゃ鳴海さん、脱ぎ脱ぎしましょうねー♪」
「ちょ、ちょっと待て!」
「‥‥‥ん?どうしました、鳴海さん?私が先に脱いでほしいんですか?えへへ、私、けっこう胸大きいんですよー。鳴海さん、きっとビックリしますねー」
「俺は、別にあんたに脱いで欲しいわけじゃないし、あんたに脱がされたいわけじゃない」
ひよのは不思議そうな顔をした。
「じゃあ、何です?」
「あんたは、間違っている‥‥。こんなことをして何の意味があるんだ?」
「えっ‥‥? 鳴海さんを『ひよひよ専用ご主人様』にするという意味がありますが?もう一生、私なしじゃ生きられないご主人様を作るんです」
「なっ‥‥?」
歩は兄である鳴海清隆が失踪して以来、久しく経験をしていなかった状況に陥っていた。どんな言葉をひよのにかけたらいいのかわからなかった。歩は絶句していたのだった。
「ではでは、鳴海さんのリクエストにお答えして、ひよのセンパイが脱いであげましょう」
ひよのは嬉々として制服の上着のボタンを外し、脱ぎ始めた。白いブラジャーと真っ白な柔肌が惜しげもなく晒された。
ひよのは仰向け状態である歩のお腹の辺りにお尻を乗せているため、歩はひよののストリップショーを下から見上げるような状態で見ることになった。
「鳴海さーん、見てくださいよー。私の胸‥‥結構大きいでしょう?まどかお姉さんとどっちがおおきいですかー?」
警視庁警部補の鳴海まどか―――兄清隆の嫁であり、初恋のひとでもあった。兄の失踪後、ずっと一緒に暮らしている。その存在は歩の心の支えとなっていた。
「―――知るか」
歩はひよのの身体を見ないように頭を横に向けた。心拍数が凄まじい勢いで上がっていくのを感じる。
あははっという笑い声が上からした。横を向いていていた歩の目の前を白いブラジャーが落下していく。
「―――鳴海さん、まどかお姉さんが好きなら、お兄さんから力ずくで奪っちゃえばイイんですよ‥‥‥」
白い腕が歩の頭を包み込んだ。顔に柔らかく暖かな感触が当たる。目の前に真っ白な女の子の双丘が現れた。
きめの細かい瑞々しい肌。プルンと揺れる双丘。その頂上にあるピンク色の二つの突起。
すべてが歩を淫靡に誘っていた。歩は思わず生唾を飲み込む。
心拍が外に漏れているのではないかと疑うくらい激しくなっていた。
歩は早鐘を押さえようと目を瞑る。
「目を瞑っても‥‥私からは逃れられませんよ‥‥一時間後には、きっと鳴海さん、『あんたのオッパイをしゃぶらせろー』って騒いでますから‥‥」
「‥‥誰がそんなコトを‥‥」
「ふふっ‥‥強がっても無駄ですからねー」
ひよのは胸を更に強く歩の顔に押し付ると、歩の髪に手を絡ませて遊ぶ。
ひよのは押し付けた胸で歩の顔をこすり始める。
「ほーら、鳴海さーん、私の乳首をしゃぶってくれないんですかー?その可愛いお口で私の乳首を苛めてくれたら、鳴海さんの教育コースを『ハードコース』から『マイルドコース』にしてあげますよー」
顔を真っ赤にさせた歩は何も答えなかった。
「―――――わかりました。それが鳴海さんの答えですね」
髪を弄っていた手が離れた。歩にのしかかっていた身体も離れる。
何が起こっているのかを確かめようと、歩が目を開けて正面を向くと、ひよのが丁度ベッドから降りるところだった。
ひよのが床に降り立って歩の方を向いた。
「これからが本番ですよ‥‥鳴海さん」
ひよのはニコリと微笑みを投げかけると、スカートを床に落下させて白いショーツ一枚だけという姿になった。
「鳴海さん‥‥ちゃんと見ていてくださいね‥‥」
いつもと違う淫猥な響きを持つひよのの声が耳に届く。頭では目を外さなければならないということがわかっているのに、なぜか外すことができなかった。
ショーツが片足づつ抜かれた。
歩の目の前には、一糸も纏わぬ少女が立っていた。
雪のように白が映える肌。見事にくびれた腰。女性の象徴ともいうべき双丘の十分な膨らみ。股間の黒い茂み。
歩はいつのまにか思考を麻痺させてジッと見入っていた‥‥。
まだまだあどけなさを残す少女は、惚けた表情を浮かべる少年を見ると妖しく口元を歪めて嗤う。
「さあ‥‥次は、鳴海さんの番ですよ‥‥」
その手には果物ナイフが握られている。
「――――――ッ!?」
ひよのの手に握られているモノを認識した歩は思わず身を竦めた。
ひよのはヒタヒタと足音をたてながら近付く。そして先ほどと同じような体勢で歩にのしかかった。
歩の目の前では、ひよのが動くたびに形の良い乳房がプルンと揺れた。股間のあたりが熱くなる。
「さあ‥‥鳴海さん。無駄なモノを全部取っちゃいましょうねー」
ひよのは上着にナイフの鋭い刃をあてると、全く躊躇することなく切り裂き始めた。
制服の上着はビリビリと景気のいい音をたてて裂かれ、シャツも切り裂かれていく。
歩の上半身が露わになると、ナイフの刃を歩の胸に這わせた。
「ああっ‥‥鳴海さんの肌も女の子の肌みたいに真っ白‥‥肌触りもイイですねー」
ひよのは片方の手で歩の肌を弄る。人差し指が、歩の乳首の周りをくすぐった。歩の身体がピクリと僅かに反応する。
ナイフを持つ方の手はゆっくりとナイフの刃を肌に這わせながら、肩の方へと向かっていく。
「うっ‥‥‥く」
歩は心地良いといえるひよのの責めになんとか耐えようと歯を食いしばる。
その様子を見たひよのは、くすりと微笑んだ。歩の乳首を弄っていた方の手が、股の方へ伸ばされる。
歩の股間に触れると、股の部分が硬く膨らんでいるのがわかった。
「鳴海さんの‥‥かなり大きくなってますねー。気持ちいいんですか、鳴海さーん?」
「‥‥‥」
歩は黙ってひよのを睨み返した。
「うーん、センパイに対する反抗的な態度はダメダメですねー。これは、お仕置きが必要ですっ♪ うーん、うーん、それじゃー私、喉が渇いちゃいましたから‥‥お仕置きとして、鳴海さんには私の喉を潤わせてもらいますねー♪」
ひよのは歩の左肩にナイフを突きつけた。
「おい、あんた‥‥もしかして‥‥」
「はいっ、鳴海さんの血で私の喉を潤わせてもらいますよ♪」
ナイフは躊躇なく歩の白い肌を切り裂いた。
「ぐっ!?ああああああああぁぁぁぁぁ‥‥」
無惨に切り裂かれた皮膚の下から真紅の液体が溢れ出て来る。
ひよのはその光景を楽しげに眺めると、己がつけた傷口に噛み付いた。
「うっ‥ぐ‥あ‥ああああああ」
ぴちゃぴちゃと淫靡さを含む水音をたてながら、ひよのの舌が傷口を舐め上げていく。
血の味がひよのの口の中に広がった。
ひよのは今、嬉しくてたまらなかった。楽しくて楽しくて、ついつい笑みが零れてしまう。大声で笑い出したい気分だ。
大好きな歩の血を飲み込むという行為――――
苦悶に歪む歩の顔―――――
痛みに喘ぐ声―――――
恐怖に震える歩の身体――――
それら全てがひよのの心を情熱的に躍らせた。
身体の奥底からマグマの様な火照りが沸きおこる。ひよのは歩の股間のモノをギュッと握った。歩の身体がビクッと反応した。
「‥‥鳴海さんはホントに最高ですね‥‥」
傷口から顔を上げると、今度は口元に血を着けたまま歩の唇を塞いだ。二人の口元が歩の血で染まる。
「んっ‥‥ん‥‥ん‥‥ん‥あっ‥んっ」
ひよのは欲望を剥き出しにして歩の唇を貪った。
同時に、股間のモノを壊れやすい硝子細工に触れるように優しく撫でてやる。
歩は下半身から細波のように打ち寄せる淫靡な刺激に硬く閉じていた口を思わず半開きにさせた。
「うっ‥‥‥ああぁっ」
歩の口から痛みからではない喘ぎが漏れた。
「鳴海さーん、感じてきましたねー。私にもっともっとイヤラシイことをしてほしいですかー?」
「うっ‥‥ああっ‥‥くっ‥‥誰があんたなんかに‥‥」
「う〜ん、鳴海さん‥‥正直になった方が絶対お得ですよー? ‥‥ふぅ。もう仕方ありませんね‥‥それでは奥の手を使いますかー」
ひよのは腕をベッドの下へ伸ばした。何やらゴソゴソと探している。
腕の動きがぴたりと止まる。
ひよのの口元が歪んだ。肩で息をしている歩の瞳を覗き込むようにして顔を近づける。
「うふふっ、鳴海さん、今なら間に合いますよー。『ひよのセンパイ、僕にもっともっとイヤラシイことをしてください。僕のオチンチンをいっぱいいっぱい弄ってください』といったら私、鳴海さんにとっても優しくご奉仕してあげますよー」
「‥‥黙れ」
ひよのは肩を落として、悲しそうな表情を作った。
「うーん‥‥鳴海さん‥‥奥の手を使わせてもらいますからねー。もうダメだ、ヤメテクレと鳴海さんが泣いて謝っても絶対に止めれませんからねー」
ひよのは、ベッドの下から液体の入った茶色い小瓶と筆を取り出した。
「‥‥なんだそれは?」
「それは秘密ですー、えへへッ」
ひよのは頭が歩の下半身に向くように身体を反転させた。
すると、歩の目の前には少女の秘部が出現した。
少女らしい淡い蔭りと、ピンク色の閉じた蛤のような秘裂。
「お、おい‥‥」
「‥‥‥んッ?何ですか、鳴海さん?」
歩は何も答えず、凝視していたひよのの秘部から目を逸らした。頬っぺが真っ赤になっている。
その様子を気配で察したのか、ひよのはくすくすと笑いながら告げた。
「鳴海さん‥‥照れなくてもいいじゃないですかー。可愛いですねー。見たいならもっと見てくださっていいんですよー。あっ! それとも、私のアソコを味わってみたいんですかー? いいですよー、舐めてくださーい」
ひよのは腰を落とし、秘部を歩の顔面付近に近づけた。
歩はそれを見ないよう硬く瞼を閉じる。
「うーん、舐めてくれませんかー」
ひよのは本当に残念そうな拗ねた声を上げた。
「それじゃー、鳴海さん。ズボンを脱ぎ脱ぎ、パンツを脱ぎ脱ぎしちゃいましょうねー。あっ動いたらダメですよー。ナイフが鳴海さんのと〜っても大事な所を傷つけちゃうかもしれませんからー」
布が叫び声を上げるように、制服のズボンがびりびりと切り裂かれる。トランクスも同じように無惨に切り裂かれた。
すると歩の肉棒が勢い良く跳ねた。
「わあー、元気ですねー」
ひよのの手が肉棒に触れた。それはビクッと反応する。
「うふふっ‥‥でも鳴海さんのオチンチンは、お兄さんのモノより10cmぐらい小さいんじゃないですかー」
「なっ‥‥あんたがなぜそんなこと言えるんだッ!?」
「私は鳴海さんのコトで知らないことはありませんよー。あつ、別に実物をみたわけじゃありませんから安心してください」
ひよのは初めて見る動物に触れるように歩の肉棒を指で撫でる。歩の身体全体が震えた。
ひよのは、口元に淫靡な笑みを浮かべた。
「それでは、鳴海さーん、覚悟はいいですかー?」
「‥‥‥‥」
歩はひよのの言葉に何も反応しない。
ひよのは、さきほどの小瓶の蓋を開けると、その中に筆を差し込む。謎の液体をたっぷりと筆にしみこませると、筆の先を歩の肉棒に押し付けた。ぺたぺたと筆が歩の肉棒を這うごとに、なんともいえない脳髄に響くような淫猥な刺激が身体中を駆け抜ける。
歩は思わず快感の喘ぎを漏らしそうになるが、寸でのところで押し留めていた。
「――――――――ッ」
「鳴海さーん、鳴いちゃってもいいんですよー♪」
それでも、歩は歯を食いしばり、声を上げないようにする。
「うふふっ‥‥無駄な努力はナンセンスですー。今、私が鳴海さんのオチンチンに塗っているモノが何なのかわかりますかー?」
ひよのの手は止まらない。筆が一定のリズムで竿の部分を撫で、袋をくすぐり、また竿をなでるという動きを繰り返している。
淫靡な快楽の雨が止まない。
快楽という名の地獄だった。
しかも、筆の責めとは異なる、新たな疼きが肉棒を襲っていた。それは、むずむずするような淫靡さを共なった疼きで、徐々に徐々にその疼きは増していく。
「うふふっ、この液はね‥‥媚薬ですよー。博識な鳴海さんなら、それが何なのかはもちろん『知って』ますよねー?」
「くっ‥‥ああああああっ‥‥」
疼きに耐え切れず、ついに歩は絶叫にも似た大きな喘ぎを迸らせた。
ひよのは、歩の顔に顔を寄せる。
「うふふっ‥‥さあ、鳴海さん‥‥本当の夜はこれからですよっ♪」
じわじわと麻痺していく思考。
理性が何かに飲み込まれようとしている。
その中で、歩は、幼女の無垢さを感じさせる、ひよのの笑顔に恐怖を感じた。