うたかた…
序章
「ふぅ… 」
立て続けに行われた対降魔戦闘に狩り出されて、緊張を解く間もなく連戦に臨んだ
花組だったが、実戦の場で陣頭に立ち指揮を取り続けた大神一郎少尉は、さすがに
疲れの色を隠せない。今日も浅草は雷門に現れた降魔の掃討作戦を終えて、大帝国
劇場に戻って来たのは深夜に近い時間だった。
「では、解散する。それぞれ明日に備えてゆっくりと休んで欲しい、以上」
隊員達は敬礼の後に各々の室へ散って行くが、大神は司令室に残り今日の戦闘の記
録の製作に取り掛かる。
「あの、隊長はん… 」
「ん、なんだい紅蘭? 」
大神は、解散後に司令室に戻って来た北京娘の問い掛けに驚きながら応える。
「まだお仕事でっか? そないに根とつめたら身体に毒やで」
「ああ、でも、これは今日中に記録しないと書類はあっと言う間に溜まってしまう
からね」
大神の返事を聞いた紅蘭はポケットから小さな薬瓶を取り出す。
「隊長はん、これあげるわ」
「なんだい、この薬は? 」
手渡された瓶を大神は胡乱な目付きで見つめる。
「まあ、精強剤の一種や、これひと粒飲めばゆっくりと寝られて溜まった疲れなん
か一発で吹き飛ばす代物やで… 中国三千年の秘薬やさかいに、まあ、騙された
と思って試してみてちょうだいな。ほな、うちも休ませていただきますさかい、
おやすみなさい隊長はん」
紅蘭は大神に薬瓶を押し付けて照れたような仕草で振り返り、そのまま部屋を出て
行ってしまった。
「紅蘭くん、ありがとう。心配かけてすまないね」
「そんな、うちと大神さんの仲やないの。ほな、おやすみね」
(隊員に心配をかけるようでは、良い隊長とは言えないな)
独り言を呟きながら紅蘭から受け取った薬瓶をむねのポケットに仕舞うと、大神は
残された戦闘記録の作成に取り掛かった。
そして…