その9

 

 

 

「うまいね、恵里子さん」

なんと声を掛けてよいやら思い悩んだ末に凡庸な言葉しか思い付かぬ自分を嫌悪しな

がら、島津は彼の股間に顔を埋めて奉仕を続ける美女の栗色の髪をやさしく撫でた。

ふと目をあげれば、すぐ先で部下の則子が大股を開ききり、矢島の律動に煽られて嬌

声を張り上げている。

「いや! あんな女を見ないで! 今は私だけを見てちょうだい」

恵里子の切羽詰まった声を聞き、島津は慌てて視線を自分の股間に戻した。

 

「ああ、ごめん、その… 」

「いいの、今は私だけを愛して」

新参者の奴隷女3号に対する対抗意識が旺盛な恵里子は、潤んだ瞳で島津を睨む。そ

の気迫に押されて彼は生唾を呑みたじろいだ。

「ねえ、もう我慢できないから、仰向けになって寝てちょうだい」

フェラの奉仕を受けながら他の女に視線を移した負い目もあり、島津は彼女の命令に

素直にしたがい尻を畳に落とす。そのままゆっくりと仰向けに横たわれば、まちかね

た様に恵里子が跨がって来た。

 

「心配しないで、島津さんの家庭を壊したりしないから。ただ、ときどき御屋敷に着

 て、こうやって私や香代子姉さんを楽しませてほしいの、ねえ、いいでしょう? 」

ピンクのルージュの剥げかけた唇を舐めて欲情を露にした美女は、そんなけしからん

台詞を吐いた後に股間に手をやり彼の勃起した一物を捕まえると、角度をうまい具合

に調整する。

 

「あふぅ… ああ、入って来ているぅぅぅ… 」

愛液の溢れる蜜壷の中に一物が呑み込まれて行く甘美な感触を堪能する耳もとで、恵

里子が恥じらいを捨て去った台詞をまき散らす。十分な潤いを見せていた肉穴は、一

気に島津の剛直を根元までくわえ込んで見せた。先週末の情熱的な肉も交わりの記憶

が鮮やかに脳裏に蘇った島津は、もう射精の危機を感じて些か慌てる始末だ。しばら

くの間は、蜜壷を埋めた雄根の感触をじっとして味わった恵里子だが、やがて荒れ狂

う欲情に翻弄されるように彼の上で腰をうねらせ始めた。

 

「あぁぁ、きもちいい… ねえ、島津さん… あっ… ひぃぃ… 」

彼の胸板に両手を付き上体を何とか支える美女は、虚ろな瞳を宙に彷徨わせ快美を貪

り喰らっていた。溢れ出した愛液が滴り流れて島津の恥毛まで濡らす中、クチュクチ

ュと淫媚な音をたてながら恵里子は腰を蠢かす。彼女に犯られっぱなしも癪だから島

津は美女の動きを無視して下から不規則に腰を突き上げて見せる。

「ああ、いい、もっと、もっと突いて! きゃぁぁぁ… 」

 

淫に狂った美女は島津の手を取ると、たわわに揺れる豊かな乳房に導き、胸元への愛

撫をせがんでくる。断る理由もないので島津は両手を持ち上げると目の前で揺れ動く

二つの豊かな膨らみを掴み、その弾力を楽しみながら揉みしだく。すると、動きに恥

じらいを無くした美女は、下に敷いた島津が驚くほどに奔放な動きを見せて快楽を貪

って行く。肉棒の抜けるギリギリまで腰をもたげたかと思えば、勢い良く尻を落とし

て蜜壷の最深部にまで剛直を呑み込む荒腰を繰り返す内に、恵美子の悲鳴も手放しに

成って行く。

 

「ひぃぃ… すてき、これ… 最高、あっ… あふぅ… 」

淫に溺れ快美に狂う美人女子大生の有り様を見せつけられて、遂に島津は我慢が利か

なくなった。ガバっと身を起こした彼は、そのまま今度は逆に恵里子を組伏した。

「はぁぁ、うれしい、犯って、島津さん… あぁぁぁ」

言われなくても引き返す事など出来ぬ所に追い込まれた島津は、欲情で瞳を潤ませる

美女を抑え込み、そのまま蜜壷を貫いた。

「だめ、イク… もう、いっちゃう! 」

散々に島津を尻に敷き淫らに踊り狂った恵里子だったから、アクメへの階段を駆け上

がるのも早かった。その駆け足に拍車を掛ける様に島津も腰を振り立てる。

 

「ひぃぃ… いく、いくぅぅぅ… あぁぁぁぁ」

目を堅く閉じて眉を顰め、男を痺れさせる艶っぽい悲鳴を吐きながら恵里子は絶頂に

達した。昇りつめた美女の蜜壷の峻烈な締め付けに耐え切れず、島津は彼女の中に精

を吐き出した。

(なんのことは無い、遠藤則子が肉便器3号ならば、この俺は肉バイブ1号じゃない

 か… )

射精後の心地よい余韻を噛み締めながら、島津は心の中でボヤいていた。

 

 

 

 

「おっさん、いい加減にしろよ、そのからっぽの頭の中には蛆でも湧いているんじゃな

 いのか! 」

若い社員の怒鳴る声がフロアに響いた。

「すみません、すぐに訂正しますから… 」

「必要無いよ! あんまり馬鹿げた発注数量だから先方が電話で確認して来てくれたん

 だ。まったく、俺が頭下げて正しい数量へ訂正してもらったが、こっちはいい恥さら

 しだぜ! あんた、いったい何考えているんだ! 」

まるで鬼の首でも取った様に若い社員は矢島を責める。気に成ってチラっと様子を窺う

と、案の定、職場の華の遠藤則子は怒りに満ちた視線を若手の社員に向けていた。やれ

やれと首を振り、ひとつ小さく溜息を吐いてから島津は席を立った。

 

「中込、ちょっと来い」

「あっ、課長、課長からも、もっと厳しく言って下さいよ。あのボケおやじと来たら、

 とんでもない発注ミスをしでかしました。先方からの確認が無ければ… 」

「分かったから、ちょっと付き合え」

憤り尚も苦情を申し立てようとする若者を、彼は少し離れた無人の会議室に連れて行く。

 

「なんですか? こんな所に呼び出すなんて。注意するなら俺じゃ無くて矢島のオッサ

 ンの方でしょう? 」

「まあ座れ、中込」

初老の男のミスを見つけだす度にストレス発散とばかりに口汚く罵る若者は、何かに付

けて矢島を庇う島津にも、余り良い印象をもってはいない様だった。

「俺、なんか間違った事を言いましたか? あのボケ親父のせいで、うちの課の全員が

 何かしら迷惑しているんですよ。新人のOL並みの仕事しかしていないのに、高い給

 料を貰って、それでもって馬鹿なミスを何度もしでかす阿呆を怒鳴って、どこが悪い

 んですか?」

 

「いや、お前は悪くないよ、中込。でもな、俺はもうしばらくは本社で課長をやってい

 たいんだよ」

まったく脈略の無い話を持ち出されて若い社員は戸惑いを隠さない。

「本社にいたいって、それと、あの糞親父と、どんな関係があるんです? 課長? 」

「実は、つい最近も役員のひとりから『矢島をよしなに頼む』と、念を押されたばかり

 なんだ。ああ見えても会社が独立した当時の功労者のひとりらしくて、役員連中もク

 ビにするのは気の毒だと思っているようなのさ」

 

蔑み罵って来た初老の男が会社の上層部と直接的な繋がりを持つと聞かされて、中込の

顔色が変わった。

「えっと、役員のひとりって… 」

「お前が名前を知る必要は無い。だが、その役員は趣味の会で矢島さんと顔を合わす事

 があって、その席で、あのオッサンは慣れぬ仕事が辛いとこぼしていたそうだ」

青く成った部下を目の前にして、島津はホラ話しを続ける。

「ここから先は、まあ、俺の推察だが、もしも矢島さんが怒鳴られ続ける事に嫌気がさ

 して上の連中に泣きついたら、オッサンに辛く当った奴は、かなり厳しい事に成るか

 も知れない。よくて地方の支店へ左遷、わるい目が出たらひとりぼっちで海外の提携

 工場の監督職なんて事もあり得るだろう」

十二分に脅しの効いたらしく、中込は真っ青に成って俯いた。

 

「かっ… 課長、どうすれば? 俺はどうすれば島流しは免れますか? 」

島津の嘘を見抜けぬ若者は縋る様な目で上司を見つめる。

「さあな? まあ、できればこの先、矢島さんを怒鳴ることを控えて、あのオッサンの

 仕事に黙って目を光らせ、ミスを見つけたらさりげなくカバーして、誰も居ないとこ

 ろで小声で失敗を指摘すれば、あるいはお前に対する心象もアップするかも知れない

 な」

課を預かる島津の話から矢島が会社の幹部と親しい関係にあると思い込んだ若者は、青

い顔をしたまま上司の話に何度も頷いた。

 

(それにしても、矢島さんには大きな借りを作ってしまったものだ… )

よろめく様に会議室を出て行く若い部下の背中を眺めながら、島津は心の中で小さく舌

打ちしていた。

 

 

 

課長・島津孝作 END

 

 

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