桃原美希子 (1月10日(木)18時17分19秒)
■アニトさま■
あけましておめでとうございます。
遅くなりましたけど 新年書き込み始めでございます。
昨年はいろいろな事件がたくさん起こって
1年を象徴する一字が「偽」でしたので
今年は「愛」とか「信」とか「夢」になるといいなと思います。
ということでメルヘンな物語を書いてみました。
おもいっきりシンデレ○のパクリなのはご容赦を〜。
だれもがご存知のストーリーなので
一気に読んでいただいたほうがいいと考えました。
長いので前編後編にわけて同時書き込みをいたします。
■門倉歩惟さま■
はじめまして 桃原美希子といいます。
フルメイクまでの女装をするようになって一年の間に
「はじめてのホテル」でございますかぁー!
小心者のワタシは完女装までは早かったのですけれど
そこから足踏み状態なのです。
一歩先をいく歩惟さまのご体験報告、参考にさせていただきます。
いろんな体験談よろしくお願いいたしますー!!
と「はじめてのホテル」の余韻に浸っていたら早くも
「いつものスナックで」「女王様との甘美なプレイ」!!!
はふ〜 刺激されて新年早々からエッチモード全開になってしまいますぅ。
■柏木彩さま■
お久しぶりでございます。
「合コン」こういうお話、ワタシは大好きです。
女装したいという気持ちを持つことから完成するまでの
行動と心理ってヒミョ〜にエッチっぽく感じます。
へぇ〜そういう理由で女装するんだぁとか
そういうことを思うんだぁ〜って
まさに「女装を空想する人」を空想してる自分がいるんです。
彩さまの他の物語を読み返してみますね。
数年といわず数ヶ月くらいでご登場くださいませぇ〜。
■みなさまへ■
あけましておめでとうございます。
ワタシ桃原美希子はリアルな女装活動をしておりますけれど
ほとんど自分だけの世界にとどまっております。
同じように装をするけど外界とは関わっていないという
女装娘さまはたくさんいらっしゃると思います。
そしてこれから女装を始めようと考えている方や
今はまだこの世界を知らない人も。
そういう方たちに自分が女装することを空想することや
エッチしちゃうことが変なことでも悪いことでもなく
こんなことを考えてる人がいるんだとか
こういう設定とかこんな展開もあるんだって
夢や希望を持っていただけるような
物語を書いていきたいと思っております。
−− シンデレオ −−

あるところに、とても小さな王国がありました。
山の上には白い城が毅然とした白鳥のようにたたずみ、
山あいの街を見下ろしていました。
小さいながらもこの国は古い伝統を守りながら栄えていました。
国のはずれの小高い丘の上に立派な建物がありました。
そこには妻に先立たれた裕福な男性が、
シンデレオという名の一人息子と住んでいました。
母親をなくした息子をかわいそうに思った男性は、
新しい母親が必要と思い再婚しました。
二度目の妻はシンデレオと同じ年ごろの二人の娘、
アナスタシアとドリゼラを連れて、屋敷にやってきました。
明るくしあわせな生活がまたはじまるはずだったのですが、
新しい家族がやってきて間もなく、父親は病に倒れ亡くなってしまいます。
父親が亡くなると、継母は本性を現しはじめました。
義理の息子のうつくしさをねたんだ継母はシンデレオにつらくあたるようになり、
意地悪でうつくしくない自分の娘だけを可愛がりました。
やがて屋敷は荒れ果てていきました。
継母たちが父親ののこした財産を浪費したからです。
使用人は、一人また一人と屋敷を去っていきました。
継母と二人の娘は、シンデレオをいじめ、ののしり、
ついには召使のような仕事を全部やらせるようになりました。
しかしそんな境遇になってもシンデレオは明るさをうしなわず、
いつかきっとしあわせがやってくるに違いない、
と信じて毎日をすごしていました。
  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
屋敷の端には高い塔がありました。
その塔は以前使用人が住んでいた場所で、
シンデレオの部屋はそのてっぺんにありました。
うす暗く古ぼけた塔でしたが、シンデレオの部屋はそうじがゆきとどき
清潔で整頓されていました。
この屋敷のなかで朝一番の陽の光が差し込むのはシンデレオの部屋の窓でした。
今朝も窓の外から淡く白い光が差し込んでいます。
小鳥たちがシンデレオの部屋の窓辺でさえずっています。
毎朝こうやって起こすのが小鳥たちの日課でした。
夜遅くまで働きづめのシンデレオは大きな枕で頭をかくし、
小鳥たちのさえずりが聞こえないふりをしています。
小鳥たちは枕元までやってきて、さえずり続けました。
本当はもっと眠らせてあげたいのですが
寝坊すると継母たちにひどくののしられるのです。
「ふふ、怒っているのね」
シンデレオが枕の下から顔を出しました。
「夢のじゃまをするからよ」
小鳥たちは丸い目でシンデレオを見つめ、いっせいにさえずりました。
「何の夢を見てたのかって? それは言えないよ。
夢を口にするとかなわなくなるんだもん」
夢を持ち続けていれば、いつか必ずかなう日が来るのではないか、
とシンデレオはひそかに思っていました。
でも、それをやすやすと口に出してしまうのはためらわれました。
自分の口から言葉となって出たとたん、熱い紅茶に入れた砂糖のように
夢が目の前で溶けてなくなってしまいそうな気がするのです。
誰にも言ったことはないのですが、
シンデレオはすてきな男性との恋を夢見ていました。
今は継母や義理の娘たちにいじめられているけど、
そのうち強くやさしい男性にめぐり会い、しあわせな毎日が訪れる……。
万に一つののぞみかもしれませんが、
それがかなう確率は決してゼロではないのです。
夢を忘れなければ、つらい毎日も何とか明るく乗り越えていけます。
いえむしろ、楽しいことがほとんどない毎日だからこそ、
シンデレオはそんな夢を描いていたのかもしれません。
こんな夢も結局はまぼろしにすぎないのかな、とふと思うときもあったのですが。
街の時計台が鳴り響き、朝の訪れを告げました。
「ああ、なんて意地悪な音! 時計さえも、働け働け、ってぼくに命令する。
でもぼくに夢を見ることをやめさせるなんて、だれにもできないよ」
  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
継母の寝室から廊下までいびきが聞こえています。
シンデレオはドアを細く開け、そっと部屋のなかをのぞきました。
「起きて、猫ちゃん」
継母が眠る立派なベッドの隣に小さなベッドがありました。
継母が大切にしている太った黒猫のルシファーが目を開けました。
「シルファー、こっちへ来て」
猫は面倒くさそうにベッドからおりると
ゆったりした足取りでこちらへ歩いてきました。
「ルシファーさまが早い朝食をお気に召さないのは存じ上げているわ。
でもこれはわたしの考えじゃないの。命令されたからよ」
ルシファーは不機嫌そうな顔で、シンデレオの後をゆっくりついて来ます。
「お母さまからね」
キッチンには犬のブールノが小さなマットの上で寝ています。
足をせわしなく前後に動かしていて、どうやら夢を見ているようです。
「ブルーノ」
ブルーノは目を覚ましました。
「また夢を見ていたんだね。ルシファーを追いかけていたの?」
シンデレラはブルーノの頭や首のまわりをていねいになでてやりました。
「今度はつかまえたの?」
ブルーノは口を大きく開けて長い舌を出し、得意そうにうなづきました。
「悪い子ね。お母さまに知れたら大変よ」
ルシファーがキッチンの隅で鼻を鳴らして忍び笑いをしました。
「ルシファーにだっていいところはあるよ。たとえば……」
と言いかけたシンデレオは、その先の言葉が見つかりませんでした。
「とても難しいことだけれど、努力して少しだけ仲良くしてね」
シンデレオはブルーノにそう言うと、犬と猫の前に牛乳入りの皿をおきました。
その時キッチンの壁にかかったベルの1つがけたたましい音をたてて鳴りました。
「今行きます!」
キッチンの壁にはベルが三つ取りつけてあり、
継母と二人の部屋につながっています。
三人は目覚めると、それを鳴らしてシンデレオをよぶことになっているのです。
もう1つのベルが鳴って「シンデレオ!」と
アナスタシアの声が遠くから聞こえてきました。
シンデレオはあわてて三人分の紅茶とスープの用意に取りかかりました。
「さあ、またはじまった。朝も昼も夜も、シンデレオ、シンデレオ。
きっと今日も大忙しだわ」
  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「おはよう、ドリゼラ。よく眠れた?」
「ふん、よけいなお世話よ。それ全部アイロンかけて持ってきて」
ドリゼラはかご一杯の衣類をシンデレオに押し付けました。
ドリゼラの部屋を出たシンデレオは、隣のアナスタシアの部屋に入りました。
「おはよう、アナスタシア」
「ぐずねえ、さっさとしてよ。そこの衣服を全部つくろっておいて」
アナスタシアもあふれんばかりの衣類をシンデレオに持って行かせました。
さらに隣の部屋をノックします。
「お入り」
「おはようございます、お母さま」
「洗濯物を持ってお行き。なまけちゃダメだよ」
「はい、お母さま」
  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
優美な白い城はこの国の自慢の一つでした。
山の上にたたずむ姿は湖に浮かぶ白鳥のようだと、だれもがほめたたえました。
しかし国王には大きな悩みが1つありました。
今日も執務室のりっぱな机にすわり、
やりきれない思いを側近の大公にぶつけていました。
「言い訳は聞き飽きた!」
さけび声とともにガラスの割れる音がしました。
興奮した王が冠を窓に投げつけたのです。
「息子には王子としての自覚がない!
もう結婚して身を固める時期だというのに!」
王はこぶしで机をたたきました。
息子である王子がなかなか結婚しようとしないことに国王はいらだっていました。
他所の国の王女たちにいったい何人会わせたことでしょう。
しかし、心がときめかないと言って、王子はそのたび結婚を拒否してきました。
物陰にかくれていた大公がおそるおそる口をはさみました。
「さようですとも、陛下。ですが、今しばらくのご辛抱を……」
「これ以上辛抱できぬ!」
国王は大公に向かってインク壺を投げつけました。
「いつの日かきっと恋が芽生え、ご結婚されることと……」
「放っておいてロマンスなど芽生えるものか!
まずは男と女がでこかで出会う必要がある。
回りの者がその条件を整えればよいのだ。
舞踏会を開くぞ、国中の年ごろの娘たちをすべて集めよ!」
  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
シンデレオは歌を口ずさみながら、一階のホールの拭き掃除をしていました。
シンデレオにできることと言えば、歌を歌って自分を励ますことくらいでした。
その時玄関の扉をたたく音がしました。
「王宮より遣いの者だ。扉を開けよ」
シンデレオは手を休め、戸口に走りました。
扉を開けると、あふれんばかりの手紙をかかえた男が立っていました。
「王様より緊急の知らせである」
シンデレオは手紙を受け取って階段を上がっていきました。
「王宮から急ぎの手紙です」
「王宮から!」
アナスタシアとドリゼラが走りよってきて、シンデレオから手紙をもぎ取りました。
今にも封筒が破れそうなほど、二人は力ずくでうばいあっています。
継母が脇から手を伸ばし、それを取り上げました。
落ち着き払った手つきで封を切り、読みはじめた継母の目がはっとかがやきました。
「まあ……舞踏会のお知らせよ!」
「舞踏会!」
「王さまの命令により、年ごろの娘はすべて出席するように……」
王子さまが独身であることは国中の皆が知っています。
そして国中の年ごろの娘がみな招かれている。
「わたしたちも出席できるのね! チャンスよ!」
姉たちは手を取り合って飛びはねながら大さわぎしています。
シンデレオの瞳が曇りました。
ああ、もしもわたしが女ならば華やかな舞踏会に行けるのに……。
  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
部屋にもどったシンデレオは、大事に取ってあった古いドレスを引っぱり出しました。
「すてきなドレスでしょ? 亡くなったお母さまの形見よ」
ドレスを体に当てたシンデレオは、その場でくるりと一回りしました。
ドレスのすそがふわりとゆれました。
そばで見ていたネズミたちが、少し首をかしげました。
ちょっとデザインが古い、と言いだけです。
「たしかにそうだけど、手を加えれば今風にできるわ。
わたし、縫い物は得意よ。このなかにいいデザインがあるの」
シナンデレオはドレスの縫い方がたくさん載った本を手に取ると
ページをめくっていきました。
袖を短くして、サッシュをあしらい、襟元にはひだかざりを付け……
本を指差しながら、シンデレオは自分の頭の中にあるデザインを
ネズミたちに話して聞かせます。
ネズミたちはじっとシンデレオを見つめていました。
シンデレオの手からドレスが離れ、ふわりと床に落ちました
「ああ、わたしはなんで男に生まれてきてしまったんだろう」
その時、「シンデレオ! シンデレオ!」とけたたましい呼び声が
階段の下から聞こえてきました。
  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
いつの間にか日はすっかり暮れ、夜八時を告げる時計台の音が聞こえてきました。
王宮には次々馬車が止まり、招待された娘たちがドレスのすそを少し持ち上げ
続々とおりていていました。
シンデレオの屋敷の玄関前にも、馬車が到着していました。
きれいに着飾ったドレス姿で馬車に乗り込む継母と姉たちを
シンデレオは見送りました。
「お城の舞踏会ってどんなかしら?」
シンデレオは町の向こう側の山にそびえるお城をながめました。
月の光を受けた城は、白く神々しい光を放って
夜空にくっきり浮かび上がっていました。
「きっと退屈で……堅苦しくて……それから」
シンデレオは噴水のそばのベンチに力なく座りました。
「ほんとうに、すてきでしょうね……」
そして大声で泣きました。
幼いころ、このベンチに父と二人で座り、
噴水をながめてよくおしゃべりをしたものです。
でも、あれはずっと遠い昔の話。
今は噴水の水も枯れ、家族の楽しい語らいもなくなってしました。
夢を持っていれば悲しみが消えるなんてウソだわ。
信じていれば願いはいつかかなうなんて……。
かなわない夢もあるのよ。
わたしには二度と幸せなんか訪れない。
ずっとこのまま生きていくのよ。
ベンチに突っ伏して泣いているシンデレオの肩がふるえています。
犬のブルーノや馬、ネズミや小鳥たちは、なすすべもなく
そのうしろすがたを見つめていることしかできませんでした。
その時、あたりが少しずつ明るくなっていくのに動物たちは気づきました。
小さな光が暗い夜の空気のなかでちかちか点滅しています。
やがてその小さな光は、吸い寄せられるように
シンデレオのまわりに集まってきました。
顔を伏せているシンデレオは自分のまわりに光が満ちてきたことに気づかず、
まだ泣いていました。
光が1つにまとまり、シンデレオの前にぼんやりと何かが浮かび上がりました。
「もう夢なんか信じることはできないわ……
信じられるものなんて何もない」
「何だって? ほんとうにそう思っているの?」
その時シンデレオの頭の上で声がしました。
「ええ本気よ」
シンデレオはうつむいたまま、思わず言い返しました。
「ばかをいうんじゃないの。わたしは夢を信じない人のところには来ないわ」
え? だれかしら? 
シンデレオがゆっくり顔を上げると、
にっこりほほえんでいるおばあさんの顔が目に入りました。
白髪でふっくらした顔の老女は、両手を広げ
「ほら、この通り、来たでしょう」と言いました。
フードのついた長いマントをはおっていました。
シンデレオはいつの間にか、このおばあさんのひざに突っ伏して
しゃくりあげていたのです。
「どうしたの? さ、涙をふいて。それじゃ舞踏会に行けないわよ」
おばあさんは、きょとんと見つめているシンデレオの手を取り、立たせました。
シンデレオは「無理です」と言いました。
「行けるわよ! でも急がなくちゃね。
奇跡を起こすにはちょっと時間がかかるから」
おばあさんはそう言うと腕まくりをしました。
「奇跡?」
「そうよ、見てて。ええっと…てんてん舞踏会に必要なのは、まず、バナナね」
「えっ? カボチャじゃくてバナナ?」
おばあさんは手に持った杖をふって呪文をとなえました。
「サラガドゥーラ、メチカブーラ、ビビディ、バビディ、ブー!」
遠くの畑になっていたバナナに向かって、
無数の光の粒が風のように流れていきました。
すると、どうでしょう。バナナがひとりでにこちらに飛んできて
見る見るうちに太く大きく膨れ上がるではありませんか。
光につつまれた巨大なバナナは、やがて黄色くかがやく馬車にかわりました。
「うわあ、すごい! 本当に魔法だ!」
遠くで様子をうかがっていた動物たちが、そばに駆けよりました。
「魔法を信じないかもしれないけど、これが呪文なの。
ここにあるものを使って、ビビディ、バビディ、ブー! ってとなえると
願いごとはなんでもかなうわ」
「さてと、お次。エレガントな馬車にふさわしいのは……」
と言いながら、魔法使いのおばあさんはかたわらの馬に目をやりました。
馬は自分がこのりっぱな馬車を引くものだと思い、
ぴんと背筋を伸ばしました。
「ネズミよ! 四頭立ての馬車がりっぱでいいわね。
ビビディ、バビディ、ブー!」
おばあさんは四匹のネズミたちに向かって杖をふりました。
四匹はたちまちりっぱな白馬に変身しました。
「さあて、あと必要なのは……」
あばあさんはまた考え込みました。
ドレスよ! シンデレオは心の中で言いました。
「馬ね」
「え? もう1頭いるの……?」
「そうよ。でも馬車を引くんじゃないの。馬をあやつる役」
その杖をふると、馬がハンサムな御者に早変わり。
さらにおばあさんは犬のブールノにも杖をふり、
お付きの者に変身させました。
「さあ、これで準備完了。いざ舞踏会へ! 時間がないわよ」
「あのう……でも……」
シンデレオは自分の洋服を見つめて、口ごもりました。
「いいのよ、お礼なんて」
おばあさんは手を大きくふって笑いました。
「その、そうではなくて……いえ、もちろん感謝しています。
でも、あの、わたしのドレスは……」
ああ、そのドレスかわいいじゃないの、と言いかけたおばあさんは、
ぎょっと目をむきました。
「あら、まあ、とんでもない恰好だわ。
あなた、なんで男の子の洋服を着ているの? すぐ用意するわ」
ビビディ、バビディ、ブー!
無数の光の粒が帯となってシンデレオの全身を取り巻きました。
ぼろぼろの男の子の服が、かがやく純白と澄んだ青のドレスに変わりました。
きちんとアップにされた髪を銀のティアラが飾っています。
シンデレオの白い肌とブルーの瞳がかがやいて見える、みごとな衣装でした。
「まあ、なんてきれいなドレス! それに見て。ガラスのくつ!」
シンデレオはドレスのすそを少し持ち上げ、
馬や御者や従者に変えられた仲間たちに透明なくつを見せました。
そして噴水の池に自分の姿を映し、うっとりながめました。
「ああ、ほんとうに夢がかなったのね」
「そうねえ、でも……夢には終りがあるのよ。真夜中にね」
おばあさんはシンデレオを見つめました
「ああ、真夜中ね、分かりました。ありがとう」
シンデレオの心はここにあらず、といった様子です。
おばあさんは少し口調を強めて続けました。
「ちょっとお待ちなさい。ここが大事なの。
時計の針が夜中の十二時をさすと、
魔法がとけて何もかもが元のすがたにもどってしまうのよ」
おばあさんはシンデレオの目をじっと見つめました。
「わかりました。でもこんなにすてきな夢を見られて本当に感謝しています」
「わたしもうれしいわ……あっ、いけない! ほら、急がないとだめよ!
舞踏会は待っててくれないわ。踊って、わらって、楽しんでらっしゃい。
さあ、あなたの舞踏会へ!」

  ▽ ▽ 後編へつづく ▽ ▽




桃原美希子 (1月10日(木)18時16分40秒)
■アニトさま■
桃原美希子としての今年の目標でございます。
物語は、これまで登場させた人物の続き物といいますか
愛着のある人物が何人もいますので
アナザーストーリーを書いていきたいと思います。
それと、もうちょっとフェチな物語も書いていこうかと。
具体的にはまだ未定なのですけれどピアッシングとかお浣腸物とか。
他には……
リアルな女装娘としてパートナーが欲しいーっ!!でございます。
ワタシの前にも魔法使いのおばあさんが現れて欲しいです。
−− シンデレオ 後編−−
王宮の大広間には国中のわかい娘たちが詰めかけていました。
どの娘も王子に目をとめてもらおうと精一杯のおしゃれをし、
つつましく上品にふるまっていました。
娘たちは一人ずつ名前をよばれると、
広間の奥に立つ王子の前に進み出て、ていねいにお辞儀をしました。
裕福でりっぱな家柄の娘や、高い地位についている父親を持つ娘たちが、
王子の前でにこやかな笑顔を浮かべました。
しかしかんじんの王子はといえば、社交辞令としか思えないような、
気のない会釈を機械的に返すばかり。
広間の貴賓席にすわる王を見上げた王子は、
手で口もとをかくしてあくびをしました。
「ええい、王子ときたら、だれにも関心を示しておらん」
国王はいらいらした気持ちを隣にいる大公にぶつけました。
片眼鏡で広間をしげしげとながめていた大公は、
やれやれといった表情で肩をすくめました。
「どの娘も今ひとつぱっとしておらんじゃないか!
理想的な娘が一人くらい現れてもよさそうなものだが」
「しっ! 陛下! 聞こえます」
娘たちは続々と歩み出て行きますが
今のところ王子の心をとらえたように思える者は一人も見当たりません。
アナスタシアとドリゼラの名前が読み上げられ、
二人はいそいそと赤いじゅうたんの上を進みました。
王子はいかにも幻滅したような様子で視線を宙に浮かせました。
「やれやれ、これではのぞみはない。
王子がほれる娘など、この国にはいないということか」
手すりから身を乗り出して見ていた王は、
頭を抱えて椅子に深く腰をしずめました。
しかしその時、王子は一人の娘に目をとめました。
低くお辞儀をしているアナスタシアとドリゼラのはるか後方、
大広間を出た先のバルコニーで、
あたりをきょろきょろと見回しているわかい女性がいます。
暗闇にまぎれてはいましたが、その娘の放つオーラには
銀色の光で夜空を照らす月のような気高さがありました。
それに気づかない大公は、方眼鏡をふり回しながら、
自信たっぷりに話しはじめました。
「やっとお分かりになりましたか、陛下。
ですからわたしくはご忠告申し上げたのですよ。
陛下は根っからのロマンチストでいらっしゃるので、
甘い夢を思い描いておられたのでしょう。
わかい王子が娘たちに礼を返しているとき、突然はっとする。
そこには王子が夢見ていたようなうつくしい娘が立っている
……名前も、どこから来たかも分からない。
しかしそんなことはどうでもいい。
この女性こそ自分の花嫁になるために現れた人だ、と王子の心が訴える……。
はっはっは、こんなのはおとぎ話です。
残念ながら現実はそう甘くありません。失敗と落胆の連続ですな」
「失敗の連続だと? よく見たらどうだ!」
国王は大公の目の前に片眼鏡をぐいと差し出しました。
大公は自分の目を疑いました。
レンズの向こうに見えたのは、わかい女性の手を取る王子のすがた。
しかも深く頭を下げて娘の手にキスしているではありませんか。
ようやくその心を射止めた女性が現れたようです。
王は大公の片眼鏡をうばい取ると、穴が開くほどシンデレオを観察しました。
「どこの娘じゃ? 顔を見たことがあるか?」
「いえ……存じ上げません」
王子はシンデレオを大広間に招き入れました。
「ではきっと良家の子女だな。さあ、ワルツじゃ、ワルツを奏でよ!」
国王が指揮者に大声で指示すると、
オーケストラが流れるような旋律を奏ではじめました。
広間のあかりが落とされ、
二人はほのかな光のなかで見つめあうと足を踏み出しました。
ステップを踏むたび、シンデレオのドレスが波のように大きくゆれます。
二人は穏やかな海に浮かぶ小船のように、
ゆったりとただよいながら踊り続けました。
「この勝負はわたしの勝ちじゃな」
国王は大公にそう言うと、あくびをしました。
「安心したら眠気がおそってきた。わしは寝室へ戻る」
「ではわたくしもこれで……」
「君はここに残れ、だれもあの二人の邪魔をさせるな。よいな!
王子があの娘にプロポーズしたら、即刻わしに知らせよ!」
王はそう言いのこすと、満足そうな表情で立ち去ってしまいました。
「ねえママ、あの子はだれ?」
「王子さまと知り合いなのかしら……知らない顔だわ」
二人をかこんでじっと見つめる来客にまぎれていたアナスタシアとドリゼラが
母親にたずねました。
「さて、わたしも知らないわね」
継母は群衆の壁の後ろを行ったり来たりしながら
王子と踊る娘を観察していました。
「でも……待って、どこかで会ったことがあるわ」
バルコニーに出て踊りはじめた二人を継母は追いかけます。
しかしその時、そばにいた大公がカーテンを引いてしまったので、
あいにくそれ以上、その娘を観察することはできませんでした。
  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
王子とシンデレオはバルコニーで踊った後、
庭園へと続く階段をおりて夜空の下を散歩しました。
池に映る二人のすがたはずっと前からの恋人同士のようです。
王子の目はシンデレオにくぎ付けでした。
今夜王宮にあつまったどの娘もかすんでしまう美貌。
気品ある物腰。優美なほほえみ。
この人しかいない。王子の心はもう決まっていました。
広大な庭園をぐるりと回ってもどり、二人はバルコニーの階段に腰掛けました。
王子はジンデレオの肩に手をやり、顔を近づけていきました。
二人のくちびるが今にも重なりそうになったとき、
遠くで時計台が鳴り、真夜中の十二時を知らせました。
「いけない、十二時だわ!」
「そう、十二時だ。でも、まだ……」
「さようなら、わたし帰らなくてはならないの」
シンデレオはあわてて立ち上がりました。
「待って! そんなに急いで帰らなくてもいいじゃないか」
王子は走り出そうとしたシンデレオの手をつかみ、引きとめようとしました。
「だめ、もう行かなくては」
「どうして?」
「だって、まだ王子さまにもご挨拶してないし……」
「王子? じゃあ……知らないの?」
ぼくがだれかも知らなかったのか。
あっけにとられた王子の手がゆるみました。
時計台の鐘の音はまだ鳴り響いています。
「さようなら」
シンデレオは王子の手をふりほどき背中を見せると、
バルコニーに引かれたカーテンに駆け寄りました。
「待って! お願いだ、名前だけでも教えてほしい!
これじゃ、どうやってさがせばいいのか……」
カーテンがひらりとめくれ、そこにすわっていた大公の鼻先をかすめました。
「さようなら」
「おお、これはいかん! お嬢さん、ちょっとお待ちください!」
あわてて椅子から腰を浮かせた大公の鼻先に、
またカーテンがふわりと覆いかぶさります。
「待って!」
王子が広間に入ってきたかと思うと、
待ちぼうけを食わされていた娘たちが数人、王子の前に立ちはだかりました。
「あの方はどなたですの?」
羨望と嫉妬にかられた娘たちはあれこれ質問を浴びせかけ、
王子はその場で足止めを食らってしまいました。
その間にシンデレオは王宮の正面玄関を走り出て階段を駆けおりました。
しかしあわてていたからでしょうか、
階段の途中でガラスのくつが片方脱げてしまいます。
いけない、拾って帰らなきゃ!
振り向くと、階段の上から大公が大声でさけびながら追いかけてきていました。
「マドモアゼル! セリョリータ!」
シンデレオをよその国の令嬢だと思い込んでいるのでしょうか。
大公はいろいろな外国語でよびかけながら、必死で駆けおりてきます。
「どうか、少し、お待ちを」
シンデレオは片方のくつをあきらめ、階段下で待ってた馬車に飛び乗りました。
「近衛隊! 近衛隊!」
大公は階段の途中でさけびました。
「門を閉じよ! あの馬車を逃がすな!」
シンデレオを乗せた馬車は門の扉が閉まりきる寸前に城を脱出しました。
馬車は暗い街道をひた走り森の中に逃げ込みます。
はるか後方から王宮の近衛隊が追いかけてきました。
時計台の鐘が鳴り続け、暗い森の中で
馬車はバナナに、馬はネズミたちにもどりました。
みごとな衣装に身をつつんでいたシンデレオも、
もとのみすぼらしい身なりにもどってしましました。
近衛隊の目を避けて、みな森の木のかげにかくれました。
何十頭もの馬たちがおそろしいスピードで目の前を駆けぬけ、
バナナを踏みつぶしていきました。
緊張がとけたシンデレオは、地面にへなへなと座りこみました。
「ごめんなさい。わたしったら、すっかり時間のことを忘れて。
夢を見ているように楽しかったのよ……」
シンデレオはそばにいるネズミや馬やブルーノに言いました。
「一緒に踊ったあの人もすてきだったわ。
王子さまに一目お会いしたかったけれどね……。
でも、もういい。終わったんだもの」
シンデレオは楽しかった思い出をふり切るように立ち上がりました。
視線を落とすと、きらきらかがやくガラスのくつが片方にのこっていました。
シンデレオはそれを両手でそっとつつみこむと、空を見上げました。
あのおばあさんは、魔法がとけても、
くつだけはのこるようにしておいてくれたのでしょうか。
「ありがとう、魔法つかいさん。本当に、何もかも、ありがとう」
  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
大公は国王の寝室の前を行ったり来たりしていました。
さて今の状況をどう説明したものだろう。
わたしが今この部屋をノックして入れば、
王子が娘にプロポーズしたものと国王は早合点するはずだ。
しかし実際には、あの娘は消えてしまった。
いや、もっと正確に言えば、あの娘を取り逃がしてしまった。
このわたしが……。
だが嘘をつくわけにもいかない。
何もかも言うしかない、正直に。
国王は大きなベッドで安らかな眠りについていました。
やっと王子が恋をした。
その安心感からか、王は夢を見ていました。
かわいらしい孫たちと遊んでいる夢です。
なんとも気の早い話でしたが、国王の頭のなかにあるのは、
幼い孫たちと送る明るく楽しい生活のことばかり。
夢のなかで王は孫たちのお馬さんごっこのお相手をしています。
幼い王子と王女がよつんばいになった国王の背に乗り、
あどけない笑い声をあげながら頭をたたきます。
コンコン、コンコン……。
どこかで音がしていました。
夢と現実の合間で聞こえてくるその音は、
どうやら自分の頭をたたいている音ではないようです。
ああ、ノックの音か……。
「うむむ……、入れ」
国王のくぐもった声が聞こえたので、大公はおそるおそるドアを開き、
なかをうかがいました。
「陛下、実は……」
大公の声を聞き取るやいなや、国王は飛び起きてベッドをおりました。
「とうとう結婚を申し込んだか! 
あの娘はだれじゃ? どこに住んでおる?」
「いえ、それが、聞くひまもなく……」
「そうか。まあ、そんなことはどうでもいい。
それよりもっと大事なことを決めねば。
結婚式の日取り、招待客のリスト、結婚式の日は祝日にして……と。
いろいろ山積みだな」
上機嫌の国王は勝手に話を進めていきます。
「ですが、陛下……どうかお聞きください」
「君には特別なほうびをやろう。そうだな……何の称号が望みだ?」
「娘が消えました」
「『娘が消えました』? 変わった称号だが、それがのぞみなら……」
と言いかけた国王の表情が硬くなり、
見る見るうちに顔が真っ赤になりました。
「な、何? 消えた?」
「ひ、引きとめようとしたのです。ですが娘はあっという間に消えてしまって」
「言い訳は聞かんぞ」
「し、しかし、消えたのです。
このガラスのくつをのこして消えてしまったのです!」
大公はポケットからガラスのくつを取り出しました。
「王子はあの娘に恋しておられます。
見つけ出すまでは絶対あきらめない、と結婚の決意までされています」
「何? 今なんと申した?」
「このくつの持ち主と結婚する、と王子は誓われたのです」
「お、王子が、そう言ったのだな?」
「はい」
「はっはっは! とうとうやったぞ!」
「しかし陛下、このくつが合う娘など、きっと何人もいるはずです」
「何人いてもよい。王子は誓ったのだからな。
そのなかの一人と必ず結婚させるぞ!
国中の娘にくつを試させろ。
そして、ぴったりはけた者をここへ連れてくるのじゃ」
  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
翌朝早くから、人々のざわめく声が国中のあちらこちらで聞こえていました。
中央広場に国王の布告書が貼り出されたのです。
シンデレオの屋敷でも、いつもより早い時刻から継母のよび声が聞こえていました。
「シンデレオ! シンデレオ!」
その声はいつもと違って少しうわずり、ひどくあせっているようでした。
「はい、お母さま」
「あの子たちはどこかしら?」
継母はアナスタシアとドリゼラをさがしているようでした。
「まだベッドのなかだと思いますが……」
「もったくもう、あの子たちは。
ほらぼやぼやしないで、早く朝食を運んでちょうだいな」
継母は早口でそう言いのこすと、階段を駆け上がっていきました。
「ドリゼラ! 起きなさい、早く!」
継母はドリゼラの部屋へ入るなり、
窓のカーテンを開けて部屋に光を入れました。
ドリゼラの手を引き、次に隣の部屋に駆け込んだ継母は、
ベッドの上のアナスタシアを力強くゆすりました。
「朝から国中が大さわぎよ。もうすぐいらっしゃるから急いで!」
「だれが来るの?」
「大公さまよ! 一晩中さがしておられたの!」
「何を?」
シンデレオが部屋に朝食を持って入ってきました。
「物じゃなくて人なの!
ゆうべの舞踏会でガラスのくつを落としていった娘をさがしておられるわ」
シンデレオの足が入口でぴたりと止まりました。
「彼は恋のとりこよ」
「大公さまが?」
「違うわ、王子さまよ!」
王子さまが?
シンデレオはおどろきで胸がつまりそうになりました。
昨夜踊ったあの男性が王子さまだったなんて……。
朝食をのせたお盆が両手からすべり落ち、食器の割れる音が響きました。
継母が苦々しい顔でシンデレオをにらみました。
「まったく、ばかな子だね。
早くそれを片付けて、この子たちのしたくを手伝っておくれ」
「でも一体何のため?
王子がゆうべの子をさがしているなら、わたしたちには関係ないじゃない」
とアナスタシアが言うと
「あなたたちどちらかにもチャンスはあるのよ! 
王子さまも、他のだれも、あの子がどこの娘か知らないの。
落としていったガラスのくつだけが手がかりなのよ。
国中の娘たちにそのくつをはかせて、
ぴったり足の合う者を見つけ出せという王さまのご命令よ。
ガラスのくつの持ち主が王子さまの花嫁になれるの!」
「花嫁に!」
「一生に一度のチャンスよ!」
アナスタシアはベッドから飛び降り、ドレスというドレスを引きずり出すと
ここをつくろえだの、アイロンをかけろだの、シンデレオにあれこれ言いつけました。
シンデレオは信じられない面持ちでぼんやりと立ちつくし、
ドレスの山を受け取っていました。
花嫁!
シンデレオは今聞いた言葉の意味がすぐに理解できませんでした。
ガラスのくつをはいていた娘が王子の花嫁になれる……
そんなことは本当に起こったの?
これは夢のはずだったのでは?
信じていれば、やはり夢はかなうということなの?
「ねえ、シンデレオの様子が変よ」
「ちょっと、目を覚ましなさい」
「わたしたち大急ぎで着替えなきゃならないのよ」
継母と姉たちの言葉にシンデレオははっと我に返り、
「着替え? そうね、こんな恰好ではだめだわ」
と自分の服に目をやりました。
そして手にしたドレスの山をアナスタシアに渡すと、部屋を出て行きました。
「ちょっとママ、何とかしてよ! 見たでしょ、今の」
さわぎたてるアナスタシアとドリゼラの前に手をかざし、
「静かにしなさい」と継母は言いました。
シンデレオは鼻歌を歌いつつ、ワルツのステップをふみながら
階段を上がっていきます。
その背中を見つめる継母の目に、暗く険しい光が宿りました。
その娘、もしかして……。
見覚えのある顔だと思いながら、ゆうべは気づかなかったけれど
王子と踊っていたのはシンデレオだったのか。
継母の心のなかで悪意の炎がちらちらと燃えはじめました。
シンデレオなんかを王子に嫁がせてなるものか。
なんとしてでもアナスタシアかドリゼラを花嫁にしなければ。
だってシンデレオは男なんだからね。
  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
馬車にゆられて大公はうたた寝をしていました。
朝早くからガラスのくつを持って、一体何軒の家を回ってきたことでしょう。
今までのところ、このガラスのくつにぴったりの足を持つ娘は現れていません。
手元がゆるんで、小さなクッションにのせたガラスのくつが
あやうく床に落ちそうになりました。
大公はそれをしっかり抱きとめ、ほっとため息をつきました。
あの娘は本当にこの国に住んでいるのだろうか?
そんな考えが頭をよぎりましたが、王の命令にそむくことはできません。
国中の娘という娘の足に、このくつをはかせてみなくてはいけないのです。
馬車はシンデレオの屋敷の前で止まりました。
二階の窓からながめていたアナスタシアとドリゼラは、
あわててお化粧をなおすと階下へ駆けおりていきました。
ノックの音が聞こえました。
継母はドアの手前で娘たちをふりかえり、
「いいわね、これが最後のチャンスよ」
と抑えた声で言いました。
そしてドアを開くと、目の前の従者に対してうやうやしく礼をしました。
大公がその後ろから、ゆっくりと近づいてきました。
「これはこれは、大公閣下。
このような所までお越しくださりありがとうございます。
「うむ。これがつとめじゃ」
大公は片眼鏡をつまんで持ち上げると、小さくうなづきました。
「わたくしの娘をご紹介いたしますわ。アナスタシアとドリゼラです」
二人は大公の前で深くお辞儀をすると、にっこりわらいました。
やれやれ、昨夜見た娘とはあきらかに違うな、と大公は思いましたが
「よろしくご協力いただきたい」
と視線をそらして言いました。
国王の布告書を従者から手渡された大公は、
抑揚のない口調でそれを読み始めました。
今朝から飽きるほど読んできたからでしょうか、
あまり熱のこもっていない、疲れたような声でした。
従者がクッションを高々と持ち上げ、かぶせてあった布を取ると
きらきらかがやくガラスのくつが現れました。
「まあ、それはわたくしのくつです!」
「あらあら、わたくし、そのくつをなくしていましたの!」
娘たちはけたたましい声を張り上げ、従者に向かって突進していきました。
従者はくつを落としそうになり、あわてて二人をよけました。
「これはわたしのくつよ!」
「何を言ってるのよ! わたしが先にはくわ!」
アナスタシアとドリゼラは取っ組み合いをはじめました。
「お行儀よく!」
継母の声が響きました。
大公が布告書を読み終え、いよいよ娘たちがガラスのくつをはくことになりました。
まずはアナスタシア。
しかし彼女の足はくつよりはるかに大きく、
かかとが全部つくからはみ出しています。
「あら、おかしいわね。ゆうべはちゃんとはけてたのに。
きっと足がむくんでいるんだわ」とアナスタシアは言いました。
従者が足とくつを持って無理やり押し込もうとしますが、
まったく入る気配はありません。
「入るわ、信じていればきっと入るのよ」と継母が身を乗り出します。
「もうよかろう。次」
従者がドリゼラの足にガラスのくつをはかせようとするのですが
ドリゼラの足も大きくて入りません。
それでもドリゼラは無理やり足を合わせました。
足の甲がアーチ型になってくつの上に盛り上がりました。
「やった! はけたわ!」
ドリゼラがそうさけんだ瞬間、
ガラスのくつは足からはじけ飛んで宙に浮きました。
「うわわわわ!」
これを割ってはいけない!
大公は床にはいつくばり、落ちてきたくつを何とか受け止めました。
「どうも申し訳ございません。やはり無理なようで……」
継母はばつが悪そうに謝りました。
ここまで足が大きくては、あきらめるしかありません。
「お宅の娘さんはお二人だけですかな?」
大公がたずねました。
「はい、二人だけです」
「なるほど。ではわたしはこれで失礼を……」
大公は帽子をかぶり、玄関から外へ出ようとしました。
「大公さま! お待ちください!」
その時階段の上から声がしました。
見上げた大公の視線の先には、古いドレスを着ているけれど
とても気品ある者がたたずんでいました。
「わたしにも試させてください」
と言いながらシンデレオは階段をおりてきました。
継母の顔はおどろきと怒りでふるえました。
何としてでも阻止しなくては!
「大公さま、どうぞお気になさらずに。あの者は召使です」
と継母があわてて前に立ちはだかりました。
「身分もわきまえずに大変なご無礼を」
片眼鏡でシンデレオのすがたを観察していた大公は、
その者のあまりのうつくしさに魅了されました。
召使ということだが、なんと魅力的な……
どことなく昨夜の女性にも似ている。
「国中のすべての娘に、という王さまのご命令です」
継母は強く言い放ちました。
「しかしシンデレオは男なのです!」
「お、男とな!」
大公は身を乗り出してシンデレオを見つめ、困った顔をしました。
そして大きくうなずきました。
「娘の恰好をした者も含めるとする。さあ、試してごらんなさい」
片手を上げて合図をし、従者を招きよせました。
クッションにのせたガラスのくつを従者がうやうやしく運んできました。
その時継母はそばにあったステッキをつかむと、
従者の足先にすべり込ませました。
従者はステッキに引っかかってころび、
ガラスのくつが落ちて粉々にくだけちりました。
「おお! 何ということだ!
あんまりだ……割れないように気をつけていたのに」
大公は割れたくつのそばにひざまづきました。
「陛下は何とおっしゃるだろう。きっと本当にわたしを殺してしまわれる!」
大公が悲痛な声を上げて割れたかけらを拾っていると、
「どうかご心配なさらないで」
とシンデレオがやさしく声をかけました。
「いや、だめだ、取り返しのつかないことになってしまった……」
「大丈夫です」
シンデレオはきらりと光るものを差し出しました。
「わたしく、もう片方を持っていますから」
  ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
もう1つのガラスのくつが、
シンデレオの足にぴったりだったのは言うまでもありません。
シンデレオと王子は結婚しました。
鐘が鳴りひびき、国中の人々が歓声を上げるなか、
真っ白なウェディングドレスに身をつつんだシンデレオは王子と馬車に乗ります。
もうドレスも馬車も消えてなくなりません。
夢が現実になったのです。
馬車を見送りながら大公は王に言いました。
「お二人のために法律までお変えになるとは!」
「王子はシンデレオが男だとわかっておったようじゃ。
それでも結婚したいと言ったのだからな」
「これでこの国に新しい形態のカップルが次々と生まれますぞ」
「古い伝統を守りながらも時代に合ったことを取り入れるのも必要じゃ。
生まれてくる男のうち1割ほどはゲイの気質を持つという。
子孫をのこすことはできない組み合わせだが
よいではないか、そういう愛もあろう。
なに、兄弟がいればその家は絶えん。この国もじゃ」
国王の背後には五人の王子がいました。
それぞれの隣には妃や婚約者がいて、二十人の孫もいます。
「あの自由さがうらやましいの。わしも国王でなかったら……」
王は大公の手をやさしく握りました。

  △ △ おわり △ △




アニト (1月15日(火)00時05分19秒)
桃原美希子さん、あけましておめでとう。
どわっはっはっはっはっはっはっ!!!!!。
《パクリ》もここまでやれば天晴れ!です。
要約や抜粋ではなくオリジナルをほぼ忠実になぞりながら
所々に美希子さんらしい遊び心が盛り込まれていて
《「愛」「信」「夢」》がいっぱいの《メルヘンな物語》になっています。
それにしても、主人公の設定を変えるだけで
女装娘さんの物語になってしまうとはなんと優れた原作なのでしょう。
読み継がれる物語とはこういうものだと改めて感じました。
このシリーズ、まだまだできそうですね。
《アナザーストーリー》や《フェチな物語》にもおおいに期待しています。
美希子さんの世界をどんどん広げていってください。
インターネットが《魔法使いのおばあさん》かもしれませんよ。
リアルではけっして知り合うことがなかっただろう美希子さんとわたし、
そして多くの作者さんとこうして会話しているのですから。


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