ささ (5月19日(木)02時55分59秒)

母が私のそばにたって、私は低いスツールに腰掛けていました。
私は、さっきから薄い藤色のサンダル型のヒールを足に合わせていました。
「僕はこれがいいかな」
そう、母にいいました。
母は、悲しそうな顔で、答えてくれない。
そのヒールの、真ん中が細くなったところが、とてもキュートで。
私は、どうしてもそれがほしかった。
ひっくり返してみたり、何度も何度も足にあわせてみたり。
私の心の中は、母に申し訳ないと思っている。
でも、キューッと胸が痛くなるほど、そのヒールがほしい。
それをほしがっている、自分を哀れんでいる。
「僕はやっぱりこれがいい」
母の白い手が降りてきて、そのヒールを少しなでる。
「でも、あなたはこれははけないでしょう。学校にはいていけないでしょう」
母が、すこしふるえる声でいう。
母は、私を可哀想にと思っている。
そう思って、私の目にも涙がわいてきた。
私は、そばにたっている母を見上げられなくて、母の足元を見ている。
母はすこし骨張っているけど、美しい足の甲をしている。
その足には、細い、リボンストリングのヒールをつけている。
私もこういうふうに、素足にヒールをつけたい、なにげなく軽く、すこしルーズに

そういうところで、私は目が覚める。
また、あの夢だと思う。
母にはもう5年もあっていない。
一人暮らしの部屋で、私はもう眠れない。
ベッドから足をおろして、自分の足の甲を見て、夢の中の悲しみをもう一度味わった
母が、軽く、少しルーズに、細いヒールをちょっと引っかかるようにして歩いて、
見るともなく、お店を見ている。
その記憶がある。きっと5月頃だろう。
母を悲しませて、父に殴られて、一人になって。
東京にでて、私はいくつかのヒールを買ったけれど。
それをはいて、軽やかに、何気なく、母のように歩くのはひどく難しいことだった。

これは「お話」です。
きっと悲しいお話です。よね。




アニト (5月19日(木)23時33分40秒)
さささん、はじめまして。
ぱっと情景が浮かぶとてもすてきな文章ですね。
淡い色彩で描かれた絵を見ているような感じがします。
これが紙芝居ならば(たとえ方が古いですか?)
2枚目の絵がめくられようとしているところまで進みました。
主人公の《私》は今どんな生活をしていて、
なぜ母のことを思い出したのか?。
人物をもっと深く掘り下げると良い物語になりますよ。
続きを楽しみにしています。


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