アニトより、このページを読まれる方へ。
以下の作品は由衣美さんからメールでいただきました。
けっして『空想デート』の趣旨に外れるものではなく、
「読み物」としてたいへんおもしろい物語ではありますが、
政治パロディになっているため、このような発表の仕方になりました。
『空想デート』の安定維持のため、
このページの存在は他言しないようお願いします。

<><><><><><><><><><><><><><>
由衣美さんのメールより(2001年1月19日)

−はじめにお読み下さい−
このお話はフィクションであり
実在の団体、人物、国家、及びその類いの有象無象などとは
いっさい、ほんとにいっさい無関係です。ええ、関係ありませんとも。
またこのお話は、著者を含むある事件を目にした人々が感じた不満と憂うつを、
いくらかでも解消することを目的としており、
特定の人物並びに団体等の名誉を棄損する意図を持たないこと、
及び特定の人物並びに団体等に対して
なんらの誹謗、中傷をも意図していないこと、
また何らの政治的主張をも含んでいないことをお断りしておきます。
また、この前文を含まない形でのいかなる形のコピーも著者は許可しません。
このお話に登場する女の子と男の子は、
どの子も女装が似合う可愛い子達を想定しておりますので、
どうぞそのように想像しつつお読み下さい。


===============================
「一子Revolution」
 前編

「ここであたしたちがやらないと、この学校は大変なことになるのよ」
一子(いちこ)は言った。
「一子ちゃん、だけどこれで潰されちゃったら、ほんとヤバイよ?」
一子に協力を約束している、男子生徒が不安げな声をあげた。
「ばか、生徒会の中にいる一子がやってくれるってんだから、
オレ達がびびってどーすんだよ」
制するように直登(なおと)が言った。
その直登の言葉に、一子は胸が熱くなるのを感じる。
「ありがと直登」
「べ、べつにおまえのために言ってやったんじゃ……
ただ、生徒会の中でオレ達と対等に話してくれるっ奴って、
一子とかおまえの友達っくらいなもんじゃん?」
直登は赤くなって口ごもり、
それに呼応するように一子も頬を赤らめて目を伏せた。
何日か前の、秘密裏に行われた反生徒会生徒集会におけるできごとである。
本来、生徒会の一員であるクラス委員を努める一子がいていい場所ではない。
この場において、生徒会長リコール決議案を
次の生徒総会において動議させることが決定された。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
女装学園永○町校舎。
謎の教育者であり、謎の実業家でもあり、
その他フォントだったり精霊だったり、
いろいろと謎な活動をしているらしいアニト氏が
理事長を務める女装学園の、日本各地に設立された分校舎の一つである。
女装学園は、長期的スパンに基づいた全人的な女装教育を旨とした、
全国からよりすぐられた潜在的
もしくは顕在的に女装願望がある少年、また女装することで
自らの幸福を切り開いていける可能性を持った少年たちに、
より良く女装できる環境を整えていくことで
健全な人格的な完成を目指している教育機関であり、
世の中からはどう思われているかはわからないが、男子高である。
数ある女装学園の中で、永○町校舎には他の校舎にはない特徴があった。
「生徒会などの自治活動の職責に就いているものでなければ、
女装してはならない」
という校則が存在するのである。
このため、永○町校舎は女装学園の中でも数少ない男女共学校だと
世の中からは思われていた。
本来、より良い女装環境を目的とした設立趣旨とは反しているようだが、
これは責任に対する正当な報酬としての女装という評価軸を設けることで、
生徒がそれぞれ公然と女装することを目指して
自己の研鑽に励むことを目的としている。
だが、やはり弊害もあった。
「女装できるものはエリート」、そうした誤った観念が形成され、
いつしか伝統化してしまったのである。
一部の女装した生徒が、
女装を許されない多くの男子生徒を率いていくという構造は、
同時に権力の腐敗を生みだすことになった。
端的に言えば、生徒会費の多くが
生徒会に属する者の衣装代として消えてしまったりしていたのである。
生徒会の少女たちは、これを「公共事業」と呼称していた。
自分たちが着飾って、その魅力を増すことで
次の生徒会選挙の票に繋げるという利益循環が、
生徒会自体を抜け出せない権力の泥沼に引き込んでいたのだ。
まあ真の意味での公共事業、すなわち校舎や施設の改善、
様々な行事の実行管理なども行っており、
そうした事どもを主務とする生徒会役員は
「土建族」などと呼ばれていた。
しかしそれらの生徒会役員達と言えども、
いやそうした者たちの方がむしろ積極的に、
生徒会の特権を享受し、濫用しているというのが実態であった。
私立校である女装学園の運営費は、
女装少年たちの幸福に関する支援という目的の元に
アニト氏の私費に拠っている部分が多く、
生徒会費の私的流用はその莫大な資産の総量からすれば微小ではあれ、
氏の懐を傷める結果ともなっている。
古くから、そうした風習に反発して行動する者もいたが、
結局全生徒が女装願望があるという校風の前に、
常に劣勢を強いられざるを得なかったのである。
数年前に一時的に政権、もとい自治機構が交代し、
旧生徒会が実権を失った時期があったが、
新生徒会は運営に不慣れだったこと、
また一般生徒にも条件により女装を解禁するという、
その条件に関する基準の不明瞭さなどが悪条件として重なり、
いつしか切り崩されて旧来の生徒会と、
宗教的な背景のある女装を好む一団と、
元演劇部の部長を中心としたグループ(園芸も好むらしく、
時折メンバーが水まきしているのが見かけられる)という
三派による連合自治機構に、権限を奪い返されるという状況となっていた。
本稿において生徒会、及び新々生徒会と呼ぶのがこれに当たる。
三派の方向性の違いによる意志の不統一と、
そもそも発足理由自体が私欲によるものと考えられたことなどが重なり
不評だった新々生徒会は、前生徒会長小口恵子
(おぐちけいこ、本名小口恵三)の病気によるリタイアと、
その後任選出の際の密室談義による不明瞭さ、
そして後任生徒会長毛利喜美(もうりよしみ、本名毛利喜朗)の
度重なる暴言と失策(及び無策)により、現在存続の危機にあった。
逆に言えば、反生徒会派の生徒たちには、
千載一遇のチャンスであるとも言える。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
生徒総会が間近に近づいていた。
この総会で、今の毛利生徒会長に対するリコール案を
可決させることができれば、
全生徒が自由に女装できる学校がやってくる。
そうした期待感が、この永○町校舎に不思議な活気を与えていた。
だが、反生徒会派の力のみでは、リコール案を可決させることは難しい。
反生徒会派の勝利のカギは、
実は生徒会の中に存在する、二つのグループの動向が握っていた。
一つは浜崎拓美(はまさきたくみ、本名浜崎拓)の率いるグループ。
そしてもう一つが、
仮想一子(かそういちこ、本名仮想紘一)が率いているグループだった。
この二つのグループは、生徒会の中にありながらもリベラルであり、
学校改革断行をスローガンにして、
一般生徒にも広く女装の門を開放すべきだという意志を持っていた。
それはエリートたる生徒会のアドバンテージを
放棄しようとする主張とも取られ、
一子と拓美のグループは生徒会の主流からは外れた位置にいた。
単なる理想論以上に一子がそれを望む理由は、なくはない。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「はい、直登の好きな貝割れサラダもあるよ」
ひとけの無い校舎の屋上で、
一子と直登は一子の作ってきた弁当をぱくついている。
「お、あんがと。一子のサラダって美味いからな」
直登はちょっとぴりぴりするサラダを、
普通には飲み下せないだろうと思うほどたくさんほお張った。
男子の制服を着ていてさえ、
なおも少女っぽく見えてしまう直登の丸っこい頬の輪郭が、
ぷっくりとゆがんで妙に愛らしい表情になる。
「ほらぁ、いっぺんに食べると大変だよ?」
一子は笑う。
「サラダがおいしい」と言ってくれることは、
女の子として自分がきちんと評価されているようで素直に嬉しい。
だけど、サラダに掛けられているドレッシングに
ちょっとだけ、かくし味として
一子が直登を想って吹き出した○液が混ざっているというのは、
一子だけの秘密だった。
そのかくし味がドレッシングの味にアクセントを加えている。
「ふう、喰った喰った」
直登が伸びをする。昼休みはまだだいぶん残っている。
管野直登(かんのなおと)、ほっそりしたしなやかな肉体と、
表情の豊かな童顔を持つ少年。
さっぱりしたショートカットが、スポーティな雰囲気の少女のようだ。
一子、ちょっと小柄だが活発でスポーツも勉強もこなす少女。
ちょっと近視でメガネが必要なのが悩みの種。
少し伸ばした髪を、今はポニーテールにしている。
二人は恋人同士だった。
直登は、現在反生徒会派のリーダー格の一人となっている。
一とき直登が、自治権を奪い取った新生徒会の保健委員長になったときには、
二人は「直子と紘一」という逆の組み合わせの恋人になっていた時もある。
だが、その新生徒会の時も、そして現在の新々生徒会でも生徒会役員と、
一般生徒との恋愛は認められていない。
二人はいわば、二つの体制に引き裂かれた恋人達と言えた。
二人の関係を知るものは少なくないはずだが、
それが今のところ問題となっていないのは、
一般生徒の中に二人の関係を好ましく想う者が多かったこと、
そしてその他の生徒会役員も多かれ少なかれ、
一般生徒を生徒会室に連れ込んで女装させ、
むりやりにアレしたりコレしたりすると言ったような風聞があり、
そっちの方が問題が多かったためでもある。
何年か前には、まだ馴致されていない少年のアヌスに、
「指を三本」無理に挿入したために
辞任に追い込まれた生徒会長がいたとかいなかったとか。
「……ね、直登」
一子は直登を見上げて言う。
「………直子」
呼び替えた。二人の時だけの呼び方に。
「……なあに?一子?」
少し含羞みながら、直登は直子として応えた。
「…今日体育あったでしょ」
それだけで、一子の言いたいことは直子に理解できた。
一般男子生徒の女装は認められていない。
それは徹底しており、
下着ですら男性用のものがむりに使わせられているし、
女の子の服装を学校に持ってくることすら禁止されているのだ。
服装検査で女性用下着を着てきたことが発覚した場合、
それは没収されたうえ
その日一日「熊八」とあだ名されている体育教師の、
汗臭い猿股とランニングで授業を受けさせられる
という屈辱的な罰まで用意されているのだ。
だがここしばらくは
抜き打ちの服装検査に引っ掛かった不運な生徒はいない。
それは一子たちが密かにリークする捜査情報の故だった。
生徒たちが一子らを応援する理由がここにもある。
表立った女装が禁止されている学校で、
下着女装をできるかできないかは大きな問題なのだ。
校則で限られた範囲での精一杯のおしゃれ、
他の学校でスカートや学ランを詰めたり
ソックスをルーズにしたりといったことをするのと同じ事を、
彼らは下着女装でしているのである。
ちなみに、体育の前後の着替えなどでは
男→女→男と変化するけっこう不思議な風景が見られる。
そして、直子の女装願望を誰よりも理解している一子が、
内心学園改革を願うのは当然のことだった。
体育があったという一子の言葉を、
直子は「ここにブルマーがある」と翻訳できる。
「いいの?借りて?」
「もちろん!そのために持ってきたんだもん」
お弁当を入れるだけには大きすぎるスポーツバッグの中から、
一子は自分が着た体操着とブルマーを取り出した。
受け取った直子の表情が、
こころなしかうっとりしているように見える。
くんくん。
「ばっばかっ!何してんのよっ!」
やにわにブルマの匂いを嗅いだ直子に、一子は怒鳴り声をあげた。
「だって、一子の汗ってとってもいい匂いがするんだもん」
悪びれずに言うと、直子はいそいそとブレザーの制服を脱ぎ始めた。
上着とスラックスとネクタイを、
ぱぱっと、まるで男の子の着替えのように脱ぎ捨て、
それからちょっと照れながらシャツのボタンを外していく。
シャツの中からほの白い少女の、
純白のソフトカップの愛らしいブラジャーと
縁のところだけがピンクでトリミングされた
白のコットンのショーツで包まれたしなやかな肉体が現出する。
もうショーツの中央は、こんもりとした膨らみを見せている。
「かわいい、直子」
「…あんまり、見ないでよ……」
胸とアソコを手で隠しながら少女の仕草で、
胸に「仮想」と大きく書かれた半袖の体操着と、
紺色のブルマを身にまとっていく。
「寒くない…?」
制服のブレザーと、
緑のチェックのミニプリーツを着けている一子は寒さは感じないが、
11月の気温は好天と言えどもすでに冬の気配を宿している。
まして二人は風の吹き通る屋上にいるのだから。
「だいじょぶ。だってほら……」
だが、直子は一子の手を取り、自分の頬に添えさせた。
熱いほどに火照っていた。
一子は微笑んで、頬に添えた手をそのまま直子の首に回す。
直子も、一子の体を制服ごと抱きしめる。
二人は、寒さを忘れられるほどのキスを交わした。
二人の肉体の間では、ブルマーとスカート、
それぞれのランジェリーに阻まれながらも、
屹立した二人のそれぞれの器官が
そこも熱くなった先端をキスさせていた。
「……あ……んぅ…一子………」
「可愛いよ……直子」
抱きしめられながら、可愛い、と言われると
直子の背筋に、羞恥に似て、しかししっかりと甘い痺れが走り抜ける。
「…一子…も……」
直子は、一子を抱きしめたままその左耳のうしろをやわらかく擽り、
制服のブラウスの襟元に熱い息を吹き込んだ。
「……ふぅ…ん……直子…」
その腕の中で、快楽に身をこわばらせる一子を、
直子はチークダンスを踊るように足を運ばせ、昇降口の陰へと導く。
ここなら誰からも見られないはずだ。
自分を抱きしめ、微かに鼻を鳴らす甘やかな声を上げる一子を、
直子は愛しいと思った。
一子の手が、直子の体操着の下に潜り込み、
ブラジャーに狭窄された下の、背中の少し汗ばんだ皮膚をなぞる。
そういったところが敏感になりやすいのを知っているのだ。
直子も一子のブラウスのボタンの上から二つ目と、三つ目を外し、
手を差し入れる。
手が一子の少女趣味な、
少し幼い感じのスポーツブラに触れ、その下に潜る。
小さな乳房の上の、小さな乳首は完全に立ち上がってしまっている。
右の乳首を指先でつまみ、こりこり、と転がすと
一子は声にならない喘ぎを漏らし、その体を支えていた力を抜いた。
二人のからだが重なったまま、冷たい大理石の屋上に崩れ落ちる。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「こらキミたちっ!」
「ひゃっ!」「へっ!?」
不意に声を掛けられて、直子と一子は仰天した。
「今そんなところを見つけられたら、一子ちゃん大変だよぉ?
もっと用心しないと」
直登と一子の隣のクラスの男子生徒、
箱山由紀夫(はこやまゆきお、女装名由紀絵)がそこにいた。
緊張感のある台詞とは裏腹に、その顔は笑っている。
名家の生まれである由紀夫は、
家の伝統によりこの女装学園でも生徒会活動に参加した。
そして、多分に漏れず女装と権力の快楽に耽溺していたのだが、
いつしかそうした生徒会の風習に苛立ちを覚え、
新生徒会が発足する際に旧生徒会を脱退、
それからは男装させられる生徒の側に立とうと努力を続けていた。
まあ、育ちがいいせいか理想主義と甘ちゃんとが混在したその主張は、
どこかピントがずれている気がするのも事実だったが、
それでも彼は、直人と並ぶ反生徒会勢力のリーダー格の一人であった。
また実力は確かにあったし、その生徒会での経験は貴重でもあった。
彼、というのは正確ではないかもしれない。
由紀夫−由紀絵は、二人に女の子の言葉遣いで話しかけたのだから、
男装していようが今は彼女と呼ぶべきなのだろう。
ぽっちゃりした輪郭の、フリルのふんだんにあしらわれた
少女っぽいドレスが似合うような風ぼうと、
ちょっと幼い感じの口調だが、内面は意外なほどに歯切れがいい。
……たまにピントはぼけているが。
男装を強いられているが、
腰近くまで長く伸ばした髪を細く三つ編みにして、
制服の下に隠している。
注意すれば判らないはずはないが、
その実力ゆえに生徒会からも黙認されていた。
最近は目立たないが、
生徒会に妹の「箱山邦絵(本名邦雄)」がいることも、
黙認の一因だったかもしれない。
仲の良い姉妹であるという話は聞かないが。
由紀絵は、まだびっくりが醒めていない二人の傍らに腰掛けた。
「安心してね。
昇降口はこっちの手の者で出入りできないようにしてあるから」
「……あ、なぁんだ。びっくりさせないでよ由紀絵ちゃん」
一子は安堵した。
「でも……でもね」
由紀絵は眉をひそめた。
能天気そうな顔立ちが、
にわかに憂いを湛えた美少女のそれに見えるから不思議だった。
「一子ちゃん、よく聴いて……」
一子と、直子は由紀絵を注視した。
「喜絵先輩が……籠絡されたって」
一子は凍りついた。悪い知らせだった。
「………そう…」
いくらかは覚悟もしていたし、
その時には笑い飛ばしてもやろうと思っていた一子だったが、
それはできなかった。
用意していた台詞「そう、ましょーがないんじゃない?」という
一連の言葉の最初の一言を言うのが一子には精一杯だった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
宮坂喜絵(みやさかきえ、本名喜一)は、現会計委員長である。
本来は引退しているべき学年なのだが、
その才覚を嘱望されて今の生徒会中枢に加えられている。
そして一子のグループの長老とも言うべき人物であった。
というとなんだか年寄りみたいだけど、
実際には振り袖が似合いそうなおっとりした和風のお嬢様タイプなのだ
(ハイ、イメージ修正して修正して)。
喜絵が籠絡された、という由紀絵の知らせは、
一子を落胆させるには充分なものだった。
リーダーとしてまだ力不足な一子を
目上である喜絵が立ててくれたからこそ、
今の一子があるということすら言える。
一子グループの、もう一人のリーダーと言える喜絵が、
生徒会の軍門に降ったということは、
いずれ一子グループと、拓美グループに
多くの脱落者が現れることを予感させた。
いや、それはすでに予感ではなく、現実の危機であった。
生徒会長リコール決議案に賛成しようとする一子たちには、
生徒会からここ最近、様々な形で懐柔や、妨害を受けてきていた。
「生徒会からの除名」をちらつかせることは、
現在生徒会に属していながら反旗を翻している一子たちにとって、
死活問題だった。
勝利すれば生徒会長の辞任か、生徒会再選挙に持ち込める。
そうなれば、生徒会から除名されても反生徒会派の助力によって、
一子は新しい生徒会体制の新しいリーダーとなることができるかもしれない。
そうすれば、前の自治代表権交代の時になしえなかった、
全校生徒の自由意志による女装という目標を、達成することができるのだ。
一子はそれを公約とすること、
そして自らが勝利した際には、それを即時に実行することを目指していた。
しかし敗北すれば、一子は全てを失う。
生徒会の一員である資格を失うとともに、
さらに生徒会に再選されることも不可能になる。
一度造反したものに、再度のチャンスが与えられた例はごく僅かだった。
男装させられたままで、卒業するまで、
生徒会の締めつけにあいながら敗残の日々を送ることになるだろう。
自分だけならまだしも、一子を慕ってついてきてくれるグループの面々に、
その苦汁を味あわせるのは堪え難かった。
いっとき、直登と一子が、直子と紘一だった時期。
あまりに堂々と女装ができ、
それが似合っている直子の姿に紘一は喜びながらも、
心のどこかで深い悲しみと嫉妬を感じずにはいられなかった。
それが元で二人の間に亀裂を生じさせたこともあったのだ。
その記憶は、一子には苦い。
だからこそ二人がともに正々堂々と女装できる学校を作らなければならない。
それもできるならば今の生徒会の支配体制を終焉させ、
しかし新たな独善的な支配集団を発生させるのではなく、
一人ひとりの意見を尊重したうえでの総意を活かしていくことのできる、
新たな学校自治の体制を作りたい。
いや、作らなければならない。
それが一子の決意だった。
だが、思いを同じくしてくれる女の子たちを、
苦しみにあわせたくないと思う一子が、同時に存在していた。
宮坂喜絵が籠絡された。
確かに喜絵は、グループの中では保守派というべきか、
暴走しがちな一子を押しとどめる役割になることも多い。
今回の「革命構想」に対しても、慎重な意見を持っていたのは確かだった。
生徒会主流派が、喜絵を狙ってきたのはその意味でも正しい。
喜絵が籠絡されたことで、
一子のグループ内にも大きな亀裂が入ったのは確実だった。
そして、それがもたらすであろう敗北の予感は、
一子の戦意を大きく阻喪させた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

次ベージへ続く

メニューへ戻る

動画 アダルト動画 ライブチャット