私は21歳以上です。



      缶詰 

                        作:テンちゃん  
     
  コンビニが好きだ。特に目的もなければ買うものもない
。でも、昇はコンビニが好きだった。なにか夜中でも人恋
しくなると、フラ〜と寄ってしまう。
 大都会のなか、ここだけは安息の場のような気がした。
ここに来れば誰かがいる。ムシャクシャしてる時でもなぜ
か落ち着く。
 今日も仕事帰り、いつものように自動ドアの前に立つ。
人がいる。立ち読みしてる人。弁当を選んでる人。そして
いつもの店員。いつもと変わらない光景。
 昇は雑誌コーナーから飲料コーナーへ歩く。と、いつも
と何かが違う。微妙に違う。

 目のはしに飛びこんできた色。カラフルな色。お菓子コ
ーナーの隣に配列された缶詰類。サバやイワシ、シーチキ
ン。焼鳥などもある。
 そのなかに新商品。昇が手に取る。鮮やかにプリントさ
れた『缶詰』。見たこともない文字。直感的に食べもので
ない気がした。昇は考えた。とすれば『香り』とかなにか
だろう。振ってみるとカラカラと音がする。
 中身はなんなのだろう。好奇心が昇をとらえる。値段は
少し高めだが一度買ってみようか。

 一つのものをわざわざ袋にいれようとする店員。昇はな
にか言いかけたが、やめにした。
 帰り道、歩きながらもう一度『缶詰』を手にする。目の
覚めるようなパープル色。でも気になるのはこの文字だ。
アラビア語のような難解な文字。考えても無駄なので、ま
た振ってみる。カラカラと音がする。

 木造のアパート。風呂はない。歩くたびギシギシと床が
きしむ。でも家賃は安い。それでいい。
 昇はあぐらをかき、缶詰を手にする。さっそく開けてみ
よう。プルタブを立てると一瞬、プシュ〜ッと音がした。
そのまま缶のふちに沿ってツツ〜と開けていく。
 昇はなかをのぞきこんだ。

 最近、コンビニに寄るのが楽しくてしょうがない。仕事
も休みがちだ。新商品を求め他県に遠出することもある。
 あの素晴らしさを体験したら仕事などどうでもいい。今
日も遠く離れたF県まで行ってきた。
 帰りの飛行機、缶詰を手にした昇。顔は自然にニヤニヤ
している。隣席の人が変人でも見てるような顔で自分を見
てる。そんなものはどうでもいい。笑いたければ笑え。

 今までで初めての色。朱とピンクを混ぜたような色。昇
は、とるものもとらずお湯を沸かした。
 缶底に書いてあるいつもの説明。

 <熱湯を線部分まで注ぎ、3分お待ちください>

  中に入ってるのは梅干しの種ぐらいの大きさ。色はその
ときどきで違う。透きとおるような桃色。エメラルドグリ
ーンなど。今まで3種類体験した。みんな個性豊かで可愛
いらしかった。でも今日のは違う。なんせ一缶に三つも入
ってるのだから。
 種も黒真珠のような淡いグレーと初めて見る色。期待が
増す。

 お湯を注ぎ、じっと待つ。昇は思う。消えなければいい
のにと。きっかり15分でソレは姿を消してしまう。昇の
前から居なくなる。また、孤独がやってくる。楽しいひと
ときのぶんだけ孤独は一層深く、苦しいものになる。

 ボォォォォオ〜〜ン!!

 3分ジャストだ。激しい煙とともに姿を現す彼女達。

 「ハァ〜〜イ!?、、げんき〜?お買いあげありがと〜
ね!!、、、この缶えらんだってことは〜、、アナタって
エッチね!」

 昇はア然とした。今までの『缶詰』はジーンズやワンピ
ース、せいぜい七分そでシャツだった。ナントカというゲ
ームに出てくるヒロインのようだった。
 しかし今回は明らかに異なる種族。まるでレースクイー
ンのような格好をしている。次々と同じハイレグ娘が姿を
あらわす。
 それに『エッチ』とはどうゆう意味だろう。過去の『缶
詰娘』とは話をしただけだ。
 恋の話、子供の頃の話、今後の夢。それを優しい笑顔で
聞き、最後に励ましてくれる。昇は時が来るまで甘え、そ
して語った。いってみれば<癒し系>だったはず。
 だが、今回の缶詰はなにか違う。昇の神経がたかぶる。
挑発的な格好と容姿の女が3人。

 「もぅ〜!なにやってんの!、、はやく脱ぎなよ!時間
ないんだからね〜!ほら!、、そうじゃなくて全部!、、
、、そうパンツも!、、、、もぅ〜メンドくさいな〜!手
伝ってあげる!」

 「い、いや、、、、こ、こんなことって、、、、い、い
やダメですってば!、、、まずいで、、アッ!」

 「せっかく買ったんだからもったいないでしょ!、、、
ま、久しぶりに外に出られたんだし、ダメって言ってもヤ
っちゃうんだけどね〜!、みんな〜!、、、、<アレ>持っ
てる?」 

 そういうと女達は各自、胸の谷間から『缶詰』を取りだ
した。   えっ!???

 「これにお湯注ぐんだよね!たしか!、、、あ!お湯あ
るじゃん!、、さぁ〜て、とーなるでしょ〜?、、そうそ
うコレもさぁ、3コ入りだから3人で9人も増えちゃうね
〜!」

 危険な兆候。缶詰の女が缶詰を持っている。と、いうこ
とはその中身の女も缶詰を持っていても不思議ではない。
 ガチャ!、、、一人が昇の警戒心を察知したらしく部屋
の鍵をかける。

 3分後、6畳一間の部屋には12人の美女と昇の姿。隣
室の住人はなにごとかと思ってるだろう。
 15分後に一回目の缶詰が消えたとしても『子孫』達は
手に手に缶詰を持っている。
 お湯がなくなったのか、一人がおよそキッチンとはいえ
ない流しから水を汲み、コンロに火をつけている。

 「さぁ、、かんねんしなさい!、、、そこに横になって
!、、これだけの人数相手にできるかしらね、、フフ!、
、、まだまだ増えるかもよ!」 

 一人が馬乗りになる。すぐに顔に一人が腰をおとす。む
りやり射精させられ、また立たせられる。足や手は複数の
女が抑えているのか動かない。入れ替わり女が男を犯す。
さらに次の女がパイズリで昇を犯す。犯す。犯す。順番を
待てないのかオナニーをはじめる女。狂うほどの快感の波
。最後の方はなにも出てこなかった。
 薄れる意識のなか、よく見ると、以前、昇の悩みや夢、
思い出話を聞いてくれたアノ少女もいた。そっくりなだけ
かもしれない。
 

 「、、ほらほら!女の子待たしちゃダメでしょ!ノボル
君!、、え!、、もっと腰つかいなよ〜!、、、まだ6回
目でしょ!、、、あと何人いると思ってんの?、、さっき
より増えて22人だよ!」

 遠くで誰かが言う。

 「ちがうよ!、、今お湯入れたから、、、えっ〜と、、
、、倍の倍!」

 その後ろで待機している女が言う。

 「アン!早くしてよ〜!15分経っちゃうでしょ!、、
、、っんと、使えない男ね〜!、、こないだみたいにオシ
ャベリしてみたら?、、、優しくただアンタの話聞いてる
と思った!?、こっちは犯したくて犯したくてウズウズし
てたっつ〜の!、、」

 まぎれもなくアノ時の清楚な彼女だった。これが本性。
いや、そもそも消滅したはずの彼女がなぜここにいる?
訳がわからなかった。

 終わらないエンドレスゲーム。昇はやがて気を失った。




 1週間後。ある精神病院。ここに昇はいる。会社は解雇
され田舎の母親が駆けつけていた。

 「、、ん〜、仕事によるストレスが原因でしょうな、、
、、なにか、、、発見した隣室の方によると、、これは、
、、まあ関係ないかもしれませんが、、、部屋は『缶詰』
だらけだったようで、、ん?いや、、、、それは当然普通
の缶詰ですよお母さん、、、おもに魚介類などの、、ええ
、、、不思議なのは、、、彼がソレにお湯をかけていたよ
うでして、、、いや、我々としてもそこになんの意味があ
るかは、、、、まぁ、そう気を落とさずに、、、」

 頭など強く打ちつけても大丈夫な壁。自殺防止にロープ
類などは一切ない。監視カメラだけが無機質な部屋と昇を
写しだす。

 「さぁ〜て、この前のつづきよ〜!、、、ここなら逃げ
道ないものね!、、、みんな、いくわよ!」

 「ウ、、ウワァァァァァアアアアア!!!!」
 
 ナースセンターから宿直の医師にコールが入る。

 「先生!、、例の患者、また発作が起きたようです!」

                    おわり


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