私は21歳以上です。


エスニック
悪夢の女囚房
            その1

  
第1章 雨村女子刑務所

「16番入れ」。
女看守の声が響く。

 ここの名前を雨村女子刑務所という。正しくは「あめむら」と読むのだが、世間的にはアマゾン刑務所という呼び名のほうが有名だ。もちろん女子刑務所というくらいだから、収容されているのは罪を犯した女の囚人だけだ。しかしそれだけがこの呼び名のついた理由ではない。

 もう一つの理由。それは、ここに収監されている女達の犯した罪、それがほとんどの例外なく、「性犯罪」を犯した女囚達で占められているということなのだ。売春、強制猥褻、猥褻物陳列罪・・・。さらに、露出狂や痴女行為、逆レイプ事件を犯した者まで。およそ性にまつわる、ありとあらゆる罪を犯した女達を全国から集め、収監しているのが、ここという訳なのだ。

 刑務所内には、精神科の医療施設まで併設されていて、いわゆる性欲の異常に強い女達を矯正するために、きめの細かい医療行為が施されているということになっている。ところが刑務所長を始め、ここを管理する女性看守達は、一人の例外もなく全てレスビアンで占められており、高い塀の中では夜毎、女だけの淫らな行為が行われているとの噂が絶えない。

 それというのも、ここでは囚人の護送ですら、一切男の警護官を排除し、全てがこの刑務所の女性看守によってまかなわれる。その独特の運営方式に対し、誰とはなしに「あそこは現代の大奥だ」「いやレズビアンの巣窟だ」などどと陰口をたたかれ、そしていつとは無しにアマゾン刑務所という名が、定着してしまったのだ。

 ついさっき護送車が到着し、今日からここの新しい住人になる、7人の囚人が到着したのだ。刑務所の重い鉄製の正面ゲートをくぐり、高い塀に囲まれた刑務所の中に一歩足を踏み入れたとたんに、たいていの囚人は、その現実を目の当たりにして重苦しい気持ちにとらわれるようだ。一応刑期というものはあるものの、この先に待ち受ける刑務所での生活への不安に心を支配されるためだ。

 悄然とした表情の女囚達は無言のまま、筋骨粒々の看守達が見守る中を黙々と歩を進める。ただ最後尾についている、ひときわ小柄な女囚だけは、とりわけ不安な表情を隠そうとせず、護送車をおろされてから今まで、しきりに落ち着きなく目を泳がせ、周囲を伺うようにして、後に従っている。

 運動場に整列させられ、ここの所長からここでの生活についての訓辞を聞く段になっても、ますます落ち着きなく、体をもぞもぞと動かしながら、スカートの裾に手をのばし、きょろきょろと周りを伺いながら、口をぱくぱくしているのだ。

そう、ここの囚人服というのもちょっと他とは変わっている。伝統的な横縞の上下というのこそ最近では見かけなくなったが、ふつう囚人服というのは、一般的にはグレーの上下服で、下はズボンと相場が決まっている。しかしここでは、それこそ所長の趣味なのかどうなのか、薄いピンク地のひざ上10pほどのワンピースが採用されている。

 男の目を意識しない女子刑務所においては、かえってこのほうが活動的で、特に若い女性の収容者が多いアマゾン刑務所では、おおむね囚人達の受けもよいようだ。

 しかしその服装自体が、実はこの小柄な囚人を先ほどから悩ませ、そして不安にさせている原因なのだ。彼女はこの所長お気に入りのワンピース風囚人服を着せられていることが、いかにも不本意であるかのように、しきりにスカートの裾を気にしているのだ。それはまるで、初めて超ミニスカートをはいた女子中学生のようでもあった。

 「あのぉ」。おずおずとその小柄な囚人が手を挙げた。一斉に看守や囚人達の目が集中する。一瞬真っ赤になったその囚人は、思わず目を伏せ、さらに小さく縮こまってしまった。

 「何か。16番、質問でもあるのか」。
威圧的な声で、女看守のチーフ格の女が大声を上げる。よっぽどの小心者なのか、16番とよばれた囚人は、思わず首を振り、蚊の泣くような声で小さく、「いいえ、なんでもありません」。とだだけ答えた。

 「よし。質問がないようならこれで終わる。これからおまえ達は、それぞれの雑居房に入ってもらう。雑居房であるから、ここでの生活は全て共同生活である。房の先輩達の言うことを聞いて、一日も早く、ここでの生活になれるように。以上」。

 所長の訓辞が終わり、囚人達はそれぞれの予定された雑居房、つまり1室あたり10人定員の大部屋に収容されることになるのだ。看守達に引っ立てられるようにして、7人の新入りが一人づつ手前の部屋から順番に、部屋をあてがわれていくのだ。

 最後尾には先ほどの16番が、相変わらず身体をもじもじさせ、スカートの裾を気にしながら、少し遅れ気味につき従っている。たかがひざ上10p程度のスカートがなぜそんなに気になるというのだろうか。普段から、スカートなど履いたことのない女の子なんだろうか・・・・?。 

 そう。実は彼女はスカートをはくことなど、ほとんど慣れていなかった。いや、たぶんはいたこともなかったのだろう。そしてもう少し正確にいうと、彼女は女の子ですらなかったのだ。


第2章 雑居房に入る

 僕の名前は、野呂和美。今、頭の中はパニック寸前だった。だって、何で僕がこんな所にいるのかがさっぱりわからない。ここってどう考えても、刑務所で、それもどうやら女の囚人だけを専門に扱っている刑務所のようだ。男の僕がここにいることも不思議なら、今着せられているこの服。どうして僕がスカートなんかをはかされて、ここに連れてこられたのか。

 何の説明もないまま、とうとうここまで来てしまった。
なに、ちょっとした出来心で、満員電車の車内で痴漢行為をしてしまった。ほんの出来心だったんだ。それが始まりだった。大声で騒がれて、電車から無理やりに降ろされて、鉄道警察官の詰所のような所に連れて行かれて。

 ビックリしたのは、詰所にいたのが女性警官だけで・・・。そういえばテレビのニュースで見た、痴漢行為などを専門的に扱う、女性警官だけの特別警邏隊だったのかもしれない。ここで調書を取られて、痴漢行為は女性に対する最も卑劣な犯罪だという意味のことをさんざんお説教されて・・・。

 僕は決して反抗的な態度をとったわけでもないし、素直にお説教に耐えていたはずだったんだ。でも、その態度が彼女たちには気には気に入らなかったらしく、反省がないとか、生意気だとか、いろいろと難癖を付けられて・・・。最後には、これはやっぱりあそこ送りにして、自分のした行為を猛烈に反省させないとね。というようなことを言われたような気がする。

 気がすると言ったのは、途中からは何を言われているのか、ほとんど耳に入らなかったからだ。また僕の悪い癖が出たのかもしれない。小言を言われると、頭がぼーっとして、周りで起きていることを理解できなくなってしまうのだ。記憶がなくなってしまうことすらある。このときの僕もまさにそんな状態だったのだろう。

 そして気がついたときには、数人の女性達と一緒に護送車のような車に乗せられて、山道を走っていたのだ。いつのまにか薄いピンクのワンピースを着せられ、そして両手には手錠までかけられていた。

 まさかその車で、こんな所に連れてこられて、刑務所に収容されるなんて・・・。裁判も何も無くって、いきなりこんなことになるなんて。どう考えたっておかしいはずだ。第一僕が男であることは、あの女警察だって分かっていたはずだ。女が女に痴漢をするはずがないわけだし、きっと何かの間違いだ。

 そう、きっと生意気な僕を脅すために、こんな手の込んだことをしているんだろう。そのときの僕は、そんなようにも考えていた。

 ガチャガチャ、ギイーッ。鍵の音、そしてドアを開ける音が廊下に響いた。はっとして僕は、もう一度周りを見渡した。やはり・・・現実?。6人いた他の囚人達は、みんなそれぞれの雑居房に収容されたのだろうか、姿が見えない。両側をがっちりと固めた女看守が、両側から僕をにらみつけている。

 「何ぼーっとしてるんだ。ここがおまえの部屋だ。さっさと入れ」。
右側の看守が大声を上げる。

 「えっ、本当に僕ここに入れられるんですかぁ」。
 「なにが僕だ。いまさらどこへ行くって言うんだよ」。
 「だって・・・。僕は男だから・・・」。
 「馬鹿かおまえ。なんで男がここに収容されるんだよ。ここは男子禁制、泣く子も黙るアマゾン刑務所だよ。そんな嘘が通ると思ってんのかい」。

 「ホントに往生際が悪いわねぇ。さっさと入れったら入れよっ」。
左側の大女が僕の背中をどーんと突き飛ばした。

 とととっ、つんのめるようにして、僕の軽い身体は雑居房の中へと突き飛ばされてしまった。どったーん。堅い雑居房の床にそのまま仰向けに倒れ込んでしまった。

 ギィー、ガチャガチャ。ドアが閉められ、そして鍵がかけられてしまった。
 「おい新入り、お姉さん達をなめると怖いよ。後はおとなしく、刑期を無事努めることだけを考えな。余分なことを考えるとろくなことにはならないよ」。
 看守達は笑い声をあげながら、廊下を戻っていった。

 いったーっ。したたかに下腹を床に打ちつけてしまい、しばらくは声もでなかった。
 「ほおーっ、今日の新人って、派手な登場してくれるじゃん」。
 「ほんと、僕だって」。
 「ねえ、あんた、年いくつなの」。

 いつの間にか、僕の周りを何人もの女囚達が取り囲み、上から見下ろしていた。はっとして顔を上げると、いきなり大きな2本の素足と、その先にある白い下着に包まれた三角地帯が目に飛び込んできた。こんな短いスカートをはいているのだから、床にははいつくばった僕の位置からは、スカートの中は丸見えなのだ。

 うっ。こんな状況だというのに、いきなり僕の中で、むくむくと肉塊が変化を始めだした。突然目の前に飛び込んだ刺激的な光景が網膜に焼き付けられ、目をつぶっても男の本能をふるいたたせる。さらにこの部屋中に充満している、10人足らずの女達の身体から発散する女の体臭が、僕の鼻孔をくすぐり、脳の神経を麻痺させてしまう。健康な男ならば、誰だってそうなってしまうだろう。

 がばっ。あわてて跳ね起きて、部屋の片隅にうずくまった。もちろん誰にも股間のコワバリを悟られないように、両手でしっかりと押さえながら・・・。

 「ねえ、きみぃ、何おびえてんのぉ?」。
 「変な子ねぇ。いったいどうしちゃったのぉ?」。
 女達は、次第に包囲網を縮めてくる。逃げようたって、こんな狭い雑居房の中だ。どこにも逃げようがない。

 もしも、ここで僕が男であることがばれてしまったら・・・。一体これから、僕はどうなってしまうのだろう。ぼくは絶体絶命の包囲網の中で、ただ股間を押さえ、うずくまったままぶるぶると震えていた。


予告編
 こうして僕の女子刑務所での生活が始まりました。まわりは女ばかり。これをうらやましいと思いますか。そう思うなら、すぐにでもあなたに替わってあげますよ。もしも、僕が男であることがばれたとしたら・・・。なにしろここは性犯罪を犯した女ばかりを収容している刑務所なんですよ。きっときっととんでもない事態になってしまいますよ。雑居房ですから、逃げることもできません。高い塀によって外界とは完全に隔絶された世界。ここで何が行われても誰も分からないのです。色情狂の雌猫の檻に放り込まれた、あわれなネズミ、それが今の僕なのです。誰か、た・す・け・て・・・。 

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