お母さんが亡くなってから、日曜日の午前中、うちじゅうの部屋の掃除をするのは私の仕事。お父さんは日曜はお休みじゃない仕事だし、お兄ちゃんは大抵研究室で休みなしなので、一人の家の中で、掃除機と一緒にくるくる動き回る。 一階のダイニング、居間、お父さんの書斎。二階に上がって、私の部屋と…最後に、お兄ちゃんの部屋。 お兄ちゃんの部屋を最後にするのには、理由がある。 お兄ちゃんは私がこうして部屋に入る事に文句をいうことはないし、男子大学生のわりには自分で部屋をきちんと片付けている(方だと思う、よくは知らないけど)。私がここでする事は、掃除機をかける事と、おふとんを干す事…だけだと、お兄ちゃんは思っている、はずだ…けど。 お兄ちゃんのベッドに、ぽふっと寝転んでみる。お兄ちゃんのにおいがする。 「…お兄ちゃん…」 もぐりこんで眼をつぶると、あったかくて、お兄ちゃんに抱き締められているような気持ちになる。五つ違いのお兄ちゃんは、昔はよく、だっこしてくれた。…最後にしてくれたのは、お母さんが死んだ時。それからお兄ちゃんは、ずっと私を大事にしてくれるようになり、そして、同時に、私に以前のように触れる事はなくなった。私も、なぜか以前のように気軽には「だっこして♪」なんて、言えなくなった。 だから、日曜日のこの時間だけ、私はお兄ちゃんの夢を、見る事にした。 「…ん…お兄ちゃん…」 ブラウスの裾から入ってきて、ブラをまくりあげて乳房にふれるのは、「お兄ちゃんの」てのひら。刺激に先端はすぐにかたくなる、そこを軽く転がすのは「お兄ちゃんの」舌先。 (俺の、可愛いはづき) いつも、お兄ちゃんはそういってくれた。お兄ちゃんのにおいに包まれて、耳もとで、お兄ちゃんの低いとおる声が聞こえるような気がして、その途端からだの芯がじわんと熱くなる。 スカートははいたまま、膝を立てて、しっとり湿ったショーツを腿のまんなかまでおろす。私のこの姿を、お兄ちゃんが見てる。そう思うと、腿のあわせめはまた、ひくんとして熱い液をとろとろ流し出す。 中指でそっと、ぷっくりとあわさった二枚の花弁をなぞる。前から後ろまで、「お兄ちゃんの」指先は何の抵抗もなしに私の細部に入り込み、触覚だけじゃない五感を刺激する。頭の中には、お兄ちゃんのこんな声が聞こえてくる。 (こんなにして…いやらしい子だな、はづきは) そして「指」は、充血した蕾を擦りあげる。 「くうんっ…お兄ちゃん、やん…」 思わず、私はお兄ちゃんを呼ぶ。お兄ちゃんは、絶対こんな事しないってわかってる。優しいもの。そして私は、お兄ちゃんの妹だもの。でも、私は、お兄ちゃんに、意地悪くこう言われたい。私の全部に、触れられたい。 「…おにい…ちゃん…」 涙が溢れた。いない、いない。ここには、お兄ちゃんは居ない…。 「…はづき?」 その途端、戸口で声がして、私ははっとして眼をあけた。 「何してるの」 お兄ちゃんだった。朝うちを出ていったのと同じ格好をしたその肩口と、髪の毛には、露が滴っていた。いきなり、私の耳に、開いた窓から雨音が飛び込んできた。 「…」 どうしよう、どうしよう、なんて言ったら良いんだろう。 でもお兄ちゃんは、不思議そうな顔をしていたけれど部屋の中に入ってきて、私のいるベッドに覆いかぶさるようにして… 「…!」 私は思わず身をすくめた。 がらがら、ぴしゃん。 お兄ちゃんは、全開だったベッドの上の窓を閉めた。 「布団、濡れてるぞ?」 「…」 「はづき、お前ねえ、どこでもすぐ寝ちゃうのは知ってたけど、眠い時は自分の布団で寝なさい」 お兄ちゃんはそう言ってにっこり笑った。 「具合、悪いのか?」 「…うん、ちょっと。掃除してたら、くらくらって。」 こんな事言ったらお兄ちゃんが心配してしまう。でも、こう言うしかない… 案の定、お兄ちゃんは心配そうな表情になって。 「じゃあ、よけい、こんな濡れた布団で寝てちゃダメだろ。立てるか?」 「う、うん、じゃあ私の部屋に戻るね…お兄ちゃん、お願いがあるの。下から、お薬持ってきてくれないかな。痛み止め。頭、痛いん…」 ばさっ。 私のウソを見すかしたように、毛布が、いつの間にかずり落ちていた自分の重みで、床に落ちた。 「…!」 「!!」 そして、ベッドの上には、何の説得力もない、半裸の私だけが。お兄ちゃんの息を飲む音が、聞こえた。 「…は…づき…?」 「お兄ちゃん!見ないで、見ないでっ…!」 お兄ちゃんにだけは、知ってほしくなかったのに。私は、お兄ちゃんにだけは、清純な可愛い妹だと、思われていたかったのに。そうでない事を、自分の兄に発情するただの牝である事を、私は、今、自分で、最愛の人の前で暴露してしまった。 「お兄ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめん…」 これは、罰。いつか来るとわかっていた、制裁。なのに、ぼろぼろ、ぼろぼろ、涙が溢れて止まらない。自分が悪いのに。なにもかも、自分のせいなのに、私は、お兄ちゃんを傷つけてしまったのに…。 お兄ちゃんの優しい瞳が軽蔑のまなざしにかわるのを見たくなくて、私はぎゅっとからだを縮めて眼をつぶった。 そのとき、ふあっとしたものが私を包んだ。 「あ…?」 お兄ちゃんのにおいのする毛布。それをかけてくれたのは、お兄ちゃんの手。そして、その眼は、戸惑いを含んではいたけれども…変わらず優しかった。お兄ちゃんは、ベッドに腰掛けた。 「…お兄ちゃん…」 「俺は、何も、見なかった。だから、はづきも忘れなさい」 「…」 「…俺も、したことある。はづきの部屋で、はづきの匂いのするベッドの中で。だから、わかる」 「…!」 お兄ちゃんが。息が止まりそうだった。 「がっかりしたか?俺が、こんなで」 「…ううん。………嬉しい。」 「そうか。…だから、俺も。」 いつの間にか、お兄ちゃんも、泣いてる。 「はづきが好きで、はづきしか好きになれなくて、そんな自分がすごく汚らわしい人間なんだって、はづきに軽蔑されて仕方がない人間なんだって、そう思ってた。 お前を大事に思う程、現実のお前に触れられなくなって、代わりに夢の中で毎晩、自分の都合のいいようにお前をよごして、でも毎日次の朝に笑顔で迎えてくれるお前を見て、どうしようもなくまた自分がいやになって。 だから、おこがましいようだけど俺は、今のお前の気持ち、わかる」 「お兄ちゃん…」 「そして今、お前の気持ちを知ったから余計、俺達はもう、この崖っぷちから引き返さなくちゃないんだって、わかった。せめて、お前だけでもだよ、はづき」 お兄ちゃんは、立ち上がった。 「なにも、気にするな。今日の事は、何も、思い出すな。そして、はづきを愛してくれる男を、好きになりなさい。そして、幸せになりなさい。 …じゃあ、俺はまた学校に戻るから」 そう言ってお兄ちゃんは、部屋を出ていこうとした。 「…やだよ!そんなのやだっ!!」 私は自分の格好もかまわず跳ね起きて、駆け寄って、お兄ちゃんの腕に、背中に、とりすがった。今、この手をはなしたら、永遠にもうお兄ちゃんは遠くに行ってしまう。お兄ちゃんはそう、全身で言っていた。 「はづき…」 「お兄ちゃん…だけなんだよっ…私の…好きなの…は…」 「…」 「おいてかないで…おいてかないでようっ…」 もう嗚咽はとまらず、自分の言ってる事も滅茶苦茶なのはわかっている。お兄ちゃんが正しいのも、お兄ちゃんの言ってる事も、わかっている。 でもただ、お兄ちゃんを愛しいと思う心だけしか、私にはなかった。 「…手をはなして、はづき」 「いや!ぜったいいや!」 「いい子だから」 そして、手は優しくほどかれた。 「あ…」 愕然とする。はなれてしまう。…そして、最後の指が、離れた。 次の瞬間、私は軽々と膝から抱き上げられていた。そして、私の唇をふさいだのは、お兄ちゃんのやわらかいそれだった。 「…」 少し遅れて、鼓動が倍ぐらいに速くなったのが感じられた。息なんか、しなくてもいい。このまま、ずっと、一緒になってたい…。 …はあっ。どのくらいたったのだろう、お兄ちゃんは唇をはなすと、私の頬に、まぶたに、キスをくり返した。 「はづき、可愛いはづき。俺はもう…理性なんて、どこかに吹っ飛ばしたみたいだ。それでも、いいのか?」 お兄ちゃんは、優しい真剣な眼で、私に聞く。 こくん。うなづく私に、お兄ちゃんはまた、長い長いキスをした。 |